170 ヤトアの戦い
素焼きの瓶にフジョーの実(仮)を入れ、塩詰めにして海に放り投げた。
「これで復活したらお手上げだな」
あと、変な進化をして上陸してこないでおくれよ。超古代植物怪獣みたいなもんになられてもこちらには光の巨人はいないんたからよ。
しばらく眺めていたらティラノサンダーが現れた。
「お前、よく現れんな」
オレに食われるために出てきてくれるんなら感謝を込めていただきます。ずっと草食系モンスターばかりだったから格別に美味いや。
「そういや、ティラノサンダーの角や爪、加工したら武器になるかもな」
骨の骨髄をバリボリしながらそんなことを考える。あーウメー。
角を咥え、爪は謎触手で持ち、ミクニールの地へと戻った。
「ん? バリュードの臭い?」
あとちょっとで着くってところでバリュードの臭いが微かに嗅ぎ取った。
「全滅してなかったんだな」
てか、これほど早くフジョーがいなくなったことがわかるとか優秀な獣だよ。
とりあえず無視してミクニールの洞窟に戻った。
「お帰りなさいませ、レオガルド様!」
外でレオノール国へ帰る準備をしていたロゼルたちが迎えてくれた。
ミクニールの連中はこの地に残るかと思ったら、レオノール国に移住することを選んだ。
この数で生きていくには少なすぎるし、守ってくれる存在もいなくなる。それならと皆で話し合って移住することを決めたようだ。
「ああ。ただいま。準備は進んでるか?」
「はい。明日に出発できると思います」
決めたのは冬の間で、春になったら準備を進めていたそうだ。
「わかった。天気がよければ出発しよう。あ、これも積んでくれ」
ティラノサンダーの角と爪を渡した。
「ヤトア。ちょっとこい。バリュードの臭いがしたから狩りにいくぞ」
「バリュード、全滅してなかったんだな」
弟子なだけに同じ発想になるのかな?
「そうみたいだな。せっかくだから一匹狩っておけ。フジョー戦があれじゃ消化不良だろう?」
「まあ、そうだな。いいところは全部師匠に持っていかれたからな」
「それは悪かった。Sランクのを探してやるよ」
「それはいいな! それならきた甲斐があるってものだ」
「レオガルド様、ヤトア様、おれも連れてってください! ヤトア様の戦い、見たいです!」
ロズがそんなことを嘆願してきた。
「しっかりついてこいよ」
まあ、見たいと言うならオレは構わない。ヤトアの戦いは勉強にもなるしな。
時間もないのですぐに出かける。
バリュードの臭いはすぐに見つけられ、一時間ほど臭いを辿ったらAランクの群れに遭遇できた。
「準備運動にアレを狩れ」
Aランクに届きそうなバリュードを謎触手で差した。
「わかった──」
霊操術を全開にしてAランクに届きそうなバリュードに襲いかかった。
「ロズ。お前はそこにいろ」
ゼルム族としては強い分類に入るようだが、ロズの力では準モンスターにも勝てない。邪魔にならないよう隠れて見ていろ。
逃げたバリュードを追い、すぐに追いついてAランクのバリュードをいただいた。肉食系でもティラノサンダーより薄味だな。
食べ終わる頃にはヤトアも狩り終わり、肩で息をしていた。
「キツかったか?」
「いや、いい準備運動だったよ」
五分くらいで息を整え、正常な呼吸へとなった。
「回復力も上がったか?」
「ああ。今のくらいならすぐ回復するようにはなったな」
「じゃあ、次は本番だ。Sランクを狩るぞ」
「近くにいるのか?」
「いるな。こちらを伺ってる気配がする」
Sランクにもなると存在感が違う。よほど気配を消す術を知らないと丸わかりだ。
「少し遠いからオレに乗れ。ロズは追ってこい。印はつけていくから」
走るだけならヤトアに匹敵する。オレが走ったあとを辿れば他の獣に襲われることはないだろうよ。
「勘づかれた。少し飛ばすぞ!」
あちらもオレの存在を感じ取ったようで猛ダッシュで逃げ出した。だが、遅い! オレにバレてる時点で射程内なんだよ!
十分もしないで追いつき、真横から頭突きをして吹き飛ばしてやった。ヤトアへのハンデだ。
「ヤトア! 死んだら遺体だけは運んでやるから安心して狩れ!」
「ああ! バリュードの死体をな!」
オレの背から飛び降り、霊操術を纏ってバリュードに襲いかかった。
先ほどの準備運動がよかったようでヤトアの動きは悪くはない。オレの頭突きを食らったバリュードの攻撃を避けている。
手を出すつもりはないが、やはりSランクのバリュードにヤトアが勝てる確率は低い。なので、オレが睨んでバリュードの意識を乱してやろう。
「レオガルド様!」
「おっ。もう追いついたか。やはりお前の脚は強靭だな。ゼルム族では一、二を争うかもな」
今度、ゼルム族で競争でもやってみるか。レオガルド杯とかやったら盛り上がるかもな。
「ヤトア様は大丈夫なんですか? 押されているように見えますが?」
「そうだな。死にたくなければ限界を超えろ、だ」
まあ、ヤトアなら大丈夫だろう。不利を悟りながらも勝つ気でいる。それなら限界も超えるだろうよ。
バリュードの骨を齧りながらヤトアの戦いを観戦した。




