158 移動中
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草原を難なく進み、ピラニアモドキがいる川へと到着した。
「ヤトア。剣から霊力を波のように出してみろ」
「波動か?」
「そうだな。霊力は波のように出る。その波の強弱で相手を殺したり気絶したりできるんだ」
「強弱か。なるほど」
自分の中で納得し、剣を抜いて剣先を川に入れると、冬でも元気なピラニアモドキが集まってきた。
精神集中。ヤトアの霊力が小さく、鋭く、剣先に集まっている。
「ハッ!」
気合い一閃、剣先から放たれた霊波動が広がりピラニアモドキを浮かび上がらせた。
風を操りピラニアモドキを陸に上げる。
「レオガルド様、これは食べれるんですか?」
「大丈夫だろう。ゼルム族が食う魚と白身だからな」
海の魚でも赤身は食わなかったが、白身なら食べた。なら、ピラニアモドキも食えるはずだ。オレも食べたが、ピリッとした感じもなかったから毒はないはずだ。
「まあ、とりあえず食ってみろ。ヤトア、火を起こすぞ」
適当に木を倒し、弱い雷を放って乾燥させ、細かく斬り刻んで火を起こした。
「念のため内臓はしっかり取ってよく焼けよ」
串に刺したピラニアモドキに塩を振り火にかける。獣の嗅覚には焼いた臭いでしかないが、ヤトアたちにはいい匂いのようで、二人して腹を鳴らした。
……ゼルム族の胃、上半身と下半身、どっちにあるんだろう……?
とかどうでもいいことを考えながらピラニアモドキを食べる二人を眺めた。
「うん。美味い」
「はい。とっても美味しいです」
それはなにより。新たな食料を発見だな。
十数匹を捌いて橇に括りつけ、氷った場所を通って川を越えた。
バルバの臭いがあるが、まだ腹は減ってない。そのままスルーして山へと入り、夜まで先を進んだ。
野営する場所を見つけ、風避けのテントを張らせ、火を起こしたらオレはエサ探しに出た。
「この辺、熊が多くて最高だな!」
少し移動しただけで冬眠している熊の臭いが嗅ぎ取れ、掘り出したら三メートルくらいの大物ばかりだった。
力をつけるために四匹ほど腹に収め、明日の分として二匹を野営地へと運んだ。
「二人とも。オレにくるまれ」
火を焚くよりオレが包んだほうが温かい。ちょっと血生臭いのは我慢しろ、だ。
朝になり、二人は堅パンとピラニアモドキを焼いて朝食を済ませ、オレは熊をいただいた。
「今日は険しいところを通る。紐で体を縛っておけ」
橇をつけて荷物を背負い、二人が乗ったらそう注意する。
「わかった」
「わかりました」
慣れるまで少し速度を抑え、この移動一番の難所まで走った。
「ここが険しいのか?」
雪で積もって真っ平らに見えるが、雪の下には大小様々な穴が開いており、その下には大蛇がうじゃうじゃと集まって冬眠しているのだ。
オレ単独なら落ちても平気だし、雷を放って美味しくいただくだけである。だが、今回は橇を牽いている。落ちないようにするには雪を吹き飛ばして穴を回避するしかないのだ。
「かなり揺れる。気を引き締めてろよ」
体内の霊力を高め、風の呪霊を体に纏う。
体を浮かせるくらい強くして難所へと駆け出した。
穴に捕らわれながらも風をコントロールして駆け抜け、昼過ぎには難所を突破。一日分の体力と霊力を消費してしまった。
ハァハァと息を切らし、体内に溜まった熱を舌から逃がした。まったく、汗のかけない体ってのも辛いもんだぜ……。
「……レオガルド様……」
「大丈夫。ただ疲れただけだ」
やっと体に溜まった熱が消えてくれ、立ち上がれることができた。オレもまだまだだな。
「今日はここで野営しよう」
もうエサを狩る力しか残ってない。これ以上はさすがに死ぬわ。
「この辺で狼を見た。オレが戻ってくるまで警戒しろ」
そう言って回れ右。大蛇を食いに向かった。
流し素麺を連想させるように絡み合う大蛇を爪で切り裂き、一心不乱に大蛇を食い散らかした。
なんとか腹を満たして戻ると、白い狼とヤトアが戦っていた。
「レオガルド様! ヤトア様がっ!」
のしのしと現れたオレに気がついたロゼルがしがみついてきた。
「慌てることはない。準モンスターにもなってない獣。ヤトアなら充分倒せる相手だ」
すぐに殺さないのは鈍った体を解すためだろう。
サイズだけは準モンスターに匹敵するが、呪霊がない獣など今のヤトアには敵わない。翻弄されるままに傷をつけられていき、勝てないと悟ったときにはもう遅い。反転した瞬間に後ろ脚を斬り裂かれた。
「師匠、どうだった?」
「最後の一閃はよかった。霊気暫って感じだな」
「霊気暫か。うん。これからそう呼ぶとしよう」
ヤトアの中二魂に刺さったようだ。
「師匠、食うか?」
「明日食うよ。今は腹一杯だからな」
今は眠りたいよ。
「お前が食え。血抜きしたら食えるだろう。余ったものを明日食うよ」
とりあえず眠気が襲ってきて頭が回らない。あとはヤトアに任せても問題ないだろう。
橇の横に寝そべり、すぐに眠りへとついた。




