156 コハドマルバの別れ木
プジョーに知られるのは困るが、そう時間もかけられない。食事と睡眠以外は駆けることに費やし、四日かかって草原に出た。
「こちらも雪が積もっているな」
今年はまあまあの降りだが、この急いでいるときには迷惑でしかない。さすがに足が冷たくなってきたわ。
「火に当たりたいもんだ」
暑さ寒さに強い体だから火に当たる必要もなかったが、今は火の中に突っ込みたいぜ。
「ん? バルバの臭い」
少しスピードを緩めて駆けてると、バルバの臭いを嗅ぎ取った。
「いいところに現れてくれる」
方向転換して臭いの元に向かうと、バルバの群れがいた。
オレの存在に気がつき発火攻撃を仕掛けてきた。
バルバくらいなら三十秒もしないで狩れる相手だが、今はその発火攻撃が欲しいのです。がんばって気温を上げておくれ。
長いこと鬼ごっこしていたせいか、バルバたちが冷静になってしまい、逃げ出しに入ってしまった。
まあ、気温も上がり体も温まった。今度は中から温めようと三匹のバルバを狩った。
一匹はいただき、一匹は皮を引き裂いて足場に。残り一匹は要塞にお土産としよう。
「今日はここで休むか」
巣だったせいかここら雪はなく、草が敷かれている。狩ったバルバも羽根があるので寝心地もいい。ここでちょっとしっかり休んでおこう。
まだ明るいが眠りにつき、起きたら敷いていたバルバを食べて力をつける。
お土産を咥え、第五要塞へと駆け抜け、昼前には到着できた。
「レオガルド様!?」
「驚かせてすまんな。ミナレアの向こうでモンスターを狩る動く木が出た。オレでも勝てるかわからない存在なのでレオノール国の位置を知られないために大きく迂回してきたのだ」
ってことを第五要塞にいる連中にざっと説明した。
「帰りにまたよる。このバルバはお前らで食え」
そう言ってブランボルへと駆けた。
雪で足を取られるが、夕方には到着。カルオンに主だった者らを集め、フジョーのことを報告した。
「それはもしかすとコハドマバルの別れ木かもしれませんな」
長老の一人がそんなことを言った。
「コハドマルバ? なんかどこかで聞いたな?」
あれ? どこでだっけ?
「ベイガー族を醜く変えた霊樹です」
「あ、あれか!」
いや、あれかと言うほど知らないもんだけどよ。
「昔、この地にも現れモンスターを食い尽くしたと聞いております」
「モンスターだけか? ゴゴール族は食われなかったのか?」
そこ、重要だぞ。
「はい。食われなかったお陰で我々はこの地に根を下ろすことができたそうです」
やはりフジョーはモンスターだけを狙う害木か。
「となれば対抗する手はあるな。花や木の実、獣から取れる油、それに火をつければフジョーは──コハドマルバの別れ木とやらを倒すことはできるかもしれんな」
オレに倒すことはできなくともゴゴールやゼルム族で倒せるってことだ。
「我々電撃隊が向かいますか?」
「いや、対抗手段を考えておくだけでいい。お前らが抜けたら困るからな。ミクニール氏族にさせるさ」
さすがにここからミクニール氏族のところまで移動させるのは酷だろう。コルモアにいくより遠いしな。
「もうしばらく帰れない。レオノール国を頼むぞ」
神殿にいきたいが、今は急ぐので我慢。ミナレアへと向かった。
途中で狩りをしたので次の昼にミナレアへと到着。帰っていたルゼに主だ者らを集めさせて報告する。
「あぁ、確かに言われてみればコハドマルバの別れ木かもしれませんな。昔のこと過ぎて忘れておりました」
ゼルム族にも辛うじてコハドマルバの別れ木は伝わっていたようで、年より連中を集めて情報を集めた。
「ミドガリア帝国にもそのコハドマルバの別れ木に似た伝承がありました」
とは霊司祭のザザだ。
「ミドガリア帝国では呪いの木、破滅の木、悪魔の木と、いろんな呼び名を持っていて、国を一つ滅ぼしたと伝わっております」
「おそらく最初に食ったものの味を覚えてそればかり食うようになったんだろうな」
獣でもたまにいる。一つの味を覚えたらそればかり食ったりな。オレも熊の味を気に入って、熊の味が基準となっているよ。
「どう倒したんだ?」
「火攻めですね。呪霊攻撃は一切効かなかったようなので」
セオリー通りか。とは言え、かなり大がかりな火攻めだったんだろうな。国を一つ滅ぼすんだからよ。
「塩の備蓄はどのくらいだ? できれば樽二つは持っていきたいんだが」
「樽で五十はあります。あと、ゴノも今年はたくさん採れたので二十樽は問題ないです」
「では、二つずつ頼む。雪が深くなる前には戻りたい」
また迂回して戻るとなるとかなり積もっているだろう。体の半分も埋まるような積雪量だと身動きも困難になる。またミナレアに戻ってこれるのは冬のピークが過ぎてからだろうな。
「用意でき次第、出発する。ゼル王に伝えるのは任せる」
「はい。お任せください」
「レオガルド様。おれを連れてってくれ」
と、ヤトアがそんなことを言った。
「人間には辛いし、子が産まれて一年も過ぎてないだろうが。父親ならまだ側についていてやれ」
と言うかマイノカに帰ってなかったのかい。なんで残ってんだよ?
「そのコハドマルバの別れ木を倒すのだろう? ミクニール氏族を使って」
オレの弟子だけあってお見通しか。
「わかった。連れていく。明日の朝には出る。用意しろ」
言い聞かせる時間がもったいない。ヤトアがやると言うなら連れていくまでだ。
「わかった」
その場から去り、オレも神殿へと向かって疲れを取るために眠りについた。
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