153 フジョー
とは言え、見て見ぬ振りはできないか。あんなのがレオノール国にこられたら瓦解され兼ねない。今、オレらがいなくなればまた原始的な暮らしに戻ってしまう。人間たちの無慈悲な侵略を受けてしまう。
そんなこと許せるか! もうここがオレの居場所なんだぞ! 奪われてたまるかよ!
あの害木──フジョー(と命名)に勝つには生態を知り、弱点を見抜く必要がある。いや、相手が樹なら火が有効か。燃やせるものがあれば勝算はあるな。
とは言え、生木を燃やすとなると油、火薬でもいいか。それを用意する準備期間を稼ぐ必要があるな。
今はまだ対抗できないのならフジョーを遠ざける必要がある。オレの存在はもう気付かれたっぽい。なら、それを逆手に取ってオレを囮にすればいい。オレだってフジョーの嫌な気配は感じられる。
「てか、この嫌な感じ、レイギヌスに似てるな?」
いや、似てるならバリュードも感じるはずだが、補食されているなら感じ取られてはいないってこと。バリュードクラスなら補食対象になるってことだ。
それならチェルシーは完全に補食対象に入り、Sランクのミディアも危うい。水を使っての攻撃もどこまで通じるかもわからないしな。
「そもそも、フジョーはどうやって獲物を認識しているんだ?」
木なだけに視覚ではない。いや、五官はないか。霊力も違うな。それだったらとっくに見つけられている。
おそらく、振動か熱、動く枝で確かめているのだろう。まあ、他にもあるかもしれないが、それがメインならやはりとっくに見つけているはずだ。
振動か熱がメイン。動く枝が補助、って感じで動くことにしよう。
フジョーの嫌な気配が遠ざかったら、ゆっくりと反対方向へと移動し、泥溜まりがあれば体を泥まみれにする。
腹が減るが、一日かけて移動する。
「バリュードの臭い?」
微かな臭いを頼りに向かうと、干からびたバリュードが数体転がっていた。
「エナジードレインか? 吸血か?」
バリュードに外傷はない。傷つけることなく干からせるならエナジードレイン系だろう。
「準モンスターの力でも逃げられないとなると、力も強いってことか」
他にもガスや刺を飛ばしたりもすることも考慮しておかないとダメだろうな。
「もっと自分が補食される存在だと意識しないとダメだな」
弱肉強食な世界で驕りは早死にの元。生き抜くには臆病なくらいがいい、ってのがよくわかるぜ。
干からびたバリュードを食ってみるが、木を噛ってるみたいでまるで味がしない。微かに残る血も水みたいに薄かった。
「食えたもんじゃないな。ペッ」
口直しするためにちょうどよくいた角の生えたゴリラっぽい獣を食らった。
「オレもこいつらからしたら災害だな」
食い食われてシュラシュシュシュ。なんて歌えるオレ、まだ余裕があるじゃん。フフ。
心に余裕が生まれたら思考にも余裕ができる。
「レオノール国があることをフジョーに知られる前に遠ざけるしかないな」
そのためにはまずレオノール国に戻らないとダメだ。って矛盾しているようだが、レオノール国の守護聖獣が消えたりしたらそれこそ国が瓦解する。
フジョーの存在を知らせ、遠ざけるために行動することを伝えないとならない。
そのためにはまずフジョーにオレの存在を知らしめ、辺りをウロウロしてからバリュードのテリトリーへ逃げる。それを何度か繰り返してから大きく迂回して、ゴゴールの方向から戻った。
十日と言う時間がかかってしまったが、フジョーの意識は剃らせられたはずだ。
「新たな災害獣がバリュードの領域に出た」
ブランボルに入り、カルオンを見つけてそう告げた。
「しばらく帰ってこれない。ゼル王と連絡を取り合ってレオノール国を守ってくれ。すまんな、詳しくは説明してる暇がなくて」
「いえ、留守はお任せください」
謎触手でカルオンの肩に置いた。
「お前らの守護聖獣となれて誇らしいよ」
そう告げてミナレアへと駆け抜け、長老たちにも同じことを告げて最前線基地へと駆けた。
さすがのオレも食事以外は駆けていたので疲労困憊。だが、ゆっくりしてられないのでルゼとミゼルにはフジョーのことをしっかり教えておいた。
「レブなら大丈夫だろうが、ミディアにはこの一帯に近づくなと伝えてくれ。フジョーはバリュードの味を覚えたはずだから。おそらく、来年までは帰れないと思う。伝令を走らせて他の町と連絡を取り合うんだ」
「わかりました。レオガルド様、危険なことはしないでください。もうわたしたちはレオガルド様とともに歩むことを誓っているのですから」
「大丈夫、とはさすがに言えない相手だが、オレはまだ死にたくない。死なないために動くさ」
謎触手でルゼの上半身の背中を擦ってやって安心させる。
「ミゼル。騎士たちよ。レオノール国の槍となり盾となって国民を守れ! 決して折れず、決して砕けるな」
騎士たちには強く厳命する。
「はっ! お任せください!」
そこにいる騎士の肩を叩いていく。
「いってくる!」
そう告げてフジョーのいるところへと駆け出した。




