143 土木隊
ブランボルを立って一時間ほどでカルオンたちに追いついた。
カルオンたちにしたら理不尽と感じるだろうが、こればかりはしょうがない。オレには風の呪霊があり、雷を出せるSSSランク。正しい計測はできないが、おそらく時速百五十キロまでは出せると思う。
もちろん、それだけやれば体力や霊力は消耗するし食う量も増える。全力を出すことは滅多にない。いつもは出しても七十パーセントくらいだ。
「オレがつく。少し急ぐぞ」
「なにかありましたか?」
「いやなに。緊急なことはない。平原の先に川があってな、そこに生息する魚を掬う網が欲しいんだよ」
「川、と言うと、凶悪な魚、ラジーが住む川ですか?」
名前があるってことは、ゴゴール族もいったことはあるんだな。
「おそらくそれだ。川に入ったらすぐに襲ってきたよ」
「ラジーはバルバも食ってしまうんですが、レオガルド様は平気だったので?」
「ちょっとくすぐったかったな。もしかして、渡れる場所があるのか?」
バルバがいたってことは渡ったってこと。なら、どこかに渡れるところがあるってことだ。
「はい。何ヶ所かあるとは聞いています。まあ、そこも命賭けのようですが」
そりゃそうか。川幅は結構あったし、橋を作るほど安全な場所でもない。他にも危険な獣はいそうだった。誰も死なずに移動するのは奇跡だろうよ。
そんなことや他のことを話ながら六日でマイノカに到着できた。
「レオガルド様がいるとこれほど早く着けるものなんですね」
「カルオンはブランボルを出たことあったのか?」
人間よりは身体能力は高そうだが、カルオンはインテリタイプ。体より頭を使うタイプだ。村の中で働いているのかと思ってたよ。
「ゼルム族との交渉役としてよくミナレアにはいってました」
なるほど。だから長老たちがカルオンを選んだわけか。脳筋を纏めるだけはある。
「レオガルド様!」
マイノカの町に入ると、ギギたち巫女がやってきた。
「ただいま」
顔に抱きつくギギを謎触手で抱き締めた。あぁ、ギギの匂いは落ち着くな。
「長い間留守にしてすまなかった。元気だったか?」
「はい。とっても。レブやチェルシーがたまに帰ってきてくれましたから寂しさも紛れました」
そうか。レブは帰ってきてくれたのか。
「ミディアとライザーは?」
「何日か前の輸送隊が農業村で見たと言ってました」
ミディアは段々と自由になっていくな。まあ、見回りになって助かるけどな。
「ゼル王はいるか?」
春の終わりから視察に出るよう言ってある。王自ら国を知れ、ってな。
「おそらくコルモアにいると思います。農業村を回ってから向かうと言ってましたから」
「そうか。なら、コルモアに向かってみるか。カルオンにコルモアやコルベトラを見せたいしな」
今後のためにもカルオンには見聞を広めてもらいたい。全体を見れるヤツは必要だからな。
「カルオン。五日くらいマイノカで休んでいろ。コルモアにいって様子を見てくるから。ギギ。カルオンたちを頼む。それと職人を呼んでくれ」
ギギにそう頼み、オレはカルオンたちを神殿に案内した。外からきたヤツの泊まるところは神殿の横にあるのだ。
カルオンたちに体を洗うように命令し、その間にやってきた職人にオレが使える網──掬い網を作ってくれるようお願いした。
夜には留守組の長老たちを集めて報告会兼宴を催し、一日だけギギとの甘い時間を過ごしてからコルモアへと向かった。
コルモアへと続く道はさらによくなっており、途中で会った輸送隊と情報交換をすると、今年からベイガー族の土木隊が道を均しているそうだ。
「土木隊を出せるほどベイガー族は増えているのか?」
「はい。人が余るようくらいに」
結構いるな~ってくらいにしか思ってなかったが、あれから十年以上経っている。呪いを解かれたヤツが所帯を持って子をなすには充分な時間だわな。
輸送隊と別れ、昼前にはコルモアに到着できた。
オレの姿を見てすぐに伝令が走ってセオルやゼルがやってきた。
「久しぶり、でもないな。なにか問題は出ているか?」
「細々な問題は毎日のように出ていますが、概ね平和です。調査船もきてないようですし」
「そうか。とりあえず、オレは狩りをしてくる。今日はまだなにも食ってないんでな」
力を抑えて駆けたからそれほど空腹にはなってないが、夜は報告会がある。頭を働かすためにも栄養を摂っておかないとな。
「それなら海にロウズが出ましたから狩ってはどうです?」
ロウズ? なんだ? と思いながらも港に向かい、漁師たちに話を聞いたら、どうもクジラっぽい生き物らしい。
岸壁に向かって海を眺めていたら、潮を吹くロウズが見えた。
「うーん。クジラじゃなく首長竜だったかー」
ジュラシックな生き物だが、サメじゃなくてよかった。ミド(サメの守護聖獣ね)と敵対はしたくないからな。
「一匹ならなんとかなるな」
風を纏い、岸壁から飛び、海の上を駆け抜けて首長竜──ロウズを狩り、陸に揚げていただいた。
「なんとなく火竜や鎧竜と似た味だな」
ちょっと味は落ちるが、これはこれで美味い。また明日狩ろうっと。




