142 発火能力
徐々に岩が多くなり、駆けるのが難しくなった。
「これ以上は面倒だな」
バルバの姿もなく、獣の臭いもない。いるのは一メートルくらいある灰色の蜘蛛の大群だった。
近づいてきた蜘蛛を踏み潰す。あとで川で洗おうっと。
全力の放電で群がる蜘蛛を殺すと、波が引くようにいなくなった。
「う~ん。食える感じはしないな」
臭いがあまりオレの好みではない。ピラニアっぽい魚に毒味させるか。
謎触手で蜘蛛を二匹絡め、川まで戻った。
オレが川辺に立つと、ピラニアっぽい魚が寄ってきた。この辺は群れるのばかりだな。
「ほれ。エサだぞ」
気持ちは池の鯉にエサをやる気分だ。
「おー食ってる食ってる」
これまで補食シーンを見てもおもしろいと感じたことはないが、ピラニアっぽい魚が蜘蛛を食っている姿がおもしろかった。
また戻り、蜘蛛を四匹持ってきて一匹ずつ川に放り投げた。
「アハハ。なんか飼いたくなってくるな」
まあ、飼えるわけもないんだが、皆で蜘蛛を貪っている姿が可愛かった。
「ほれ。いっぱい食え」
しばし時間を忘れてピラニアっぽい魚を眺めていると、ギエーギエーっと言う鳴き声が聞こえた。なんだ?
「バルバのボスか?」
振り返ると、Aランクかと思う黒いニワトリや黒に白、斑なニワトリが現れた。
「赤い角……あのときのニワトリの子か?」
ってことは発火能力を受け継いだっぽいな。
なんて思っていたらオレの周囲にたくさんの火の玉が生まれた。他のヤツも発火能力を持ってんのかい!
「焚き火ていどだな」
ボスっぽいヤツの火の玉は他より大きいが、それでもオレの毛を焼く温度ではない。これなら謎触手で払い落とせる。
ボスっぽいヤツを睨みながら謎触手で火の玉を払い落としてやる。
「ギエー!!」
おーおー威嚇しちゃって。自ら弱いってことを証明してるぞ。
ボスっぽいヤツの怒りなど無視して川に飛び込む。
ピラニアっぽい魚がじゃれてくるが、オレにしたらドクターフィッシュと同じ。くすぐったいくらいだ。
渡る間にも火の玉攻撃を仕掛けてきてるも、オレの謎触手は感覚があり、熱を感じられる。感じるものだけを払い落としてやる。当たっても被害はないしな。
川を渡り、ボスっぽいヤツを睨みながらブルブルと水滴を落とした。
「若いな」
なんと言うか、ボスっぽいヤツから意気がる不良の姿が見える。自分が最強だと勘違いし、上には上がいることをわかってない。雑魚の臭いがする。
ボスっぽいヤツに目を合わせたまま、その隣にいるヤツに雷を放った。
オレは別に照準を標的に合わせる必要はない。ニワトリどもの呪霊(霊力)を感じれば雷を放てるのだ。
突然のことにニワトリどもがギエーギエー騒ぎ出す。まだ統制ができてないようだ。
「まあ、猟兵の訓練に付き合ってもらうから、もうしばらく意気がってろ」
そう呟き、回れ右してその場から駆け出した。
途中でバルバの群れに遭遇したので一匹だけ狩り、咥えてドーガたちがいる場所へと戻った。
「どうでした?」
「いたよ。若造がな」
「若造、ですか?」
先ほどのことをドーガたちに語ってやった。
「ふふ。レオガルド様がそう言うと、本当に意気がる若造に思えてきますな」
他のヤツらも苦笑している。種族が違えどそんなバカはいるのだろう。
「ただ、発火能力は厄介そうですな」
「当たれば確かにそうだが、対処法はあるし、あのくらいなら槍で叩き落とせる。要は飛んでくる石を叩き落とす要領だ」
そう威力の高くない特殊能力など脅威ではない。あのていどなら物理的に対抗できる。
「前にも言ったかもしれんが、あいつらは目で標的を認識して一点に呪霊を集めて火を生み出している。なら、相手の視線から逃れればいいし、一点に呪霊を集めたとき熱は生まれる。それを感じて避ければいい。他にも周りのヤツが補ってやれば五人対二匹でも勝てるとオレは思うぞ」
ボスっぽいヤツはともかく、周りにいたヤツらは獣の域だ。竜獣よりちょっと強いって感じだろうよ。
そんなことを話し合い、いろんな戦術を考えた。
「食料を考えながらしばらくバルバで練習していろ。マイノカや他を回らないとならないからな」
なにより、ピラニアっぽい魚を捕まえる網や籠とか作ってもらいたい。
「わかりました。次に会えるときはバルバを倒せるようにしておきます」
「がんばるのはいいが、無茶はするなよ」
「はい。無茶はしませんが無理はすると思います。他に負けてられませんからな」
まったく、こう言うところが扱い難いんだよな……。
「考えて戦えよ」
肯定も否定もせず、そう言い残して駆け出した。
またバルバを狩り、次は平原の村に持ってってやり、ドーガたちのことを話した。
「またくる。報告はこまめに伝えろ」
そう言いつけてブランボルへ。カルオンたちは数日前にマイノカへと出発していた。
駆ければすぐに追いつくが、神殿で巫女たちとのスキンシップも大事と、三日くらい一緒に過ごし、守人たちとの訓練もした。
「ブランボルを頼むぞ」
「はい。お気をつけて」
神殿長のシャルタや巫女たちと別れを告げ、カルオンたちのあとを追った。




