141 ピラニアっぽい魚
いつの間にか寝落ちして、気がついたら夕方になっていた。
いかん! なんか気持ちよすぎて眠っちまったぜ!
体をビクッとさせた瞬間、なんかギーギーとなにかが鳴いた。
「あ、バルバ!?」
そうだ! バルバを狩りにきたんだった!
ガバッと起きると、遠くにバルバが見えた。逃げられ──ると思うなよ!
寝起きとは言え、この体は高性能。数秒でトップスピードに乗り、数十匹いるバルバを追い越してしまった。
レオターン! でバルバと向き合った。
ん? なんかこいつら小さくね?
前のバルバは準かAランクくらいあったのに、目の前にいるバルバはただのデカいニワトリ。獣の域だった。
……どうなってんだ……?
なんて考えは振り払い、目の前のバルバに集中してナイフを抜き、脚だけを斬りつけた。
「堅いな!」
謎触手の力では切断はできず、表面を少し斬れたくらいだった。脚だけは準モンスター並みだな!
致命傷にはならず、バルバたちは散り散りになって逃げてしまった。が、まったくのノーダメージと言うわけではなく、走る速度は落ちていた。
まあ、ノーダメージでもオレの脚ならモーマンタイ。あっと言う間に吹き飛ばしてやった。死ぬと鮮度が落ちるからな。
三匹をいただき、残りはミミズがいた湿地帯に運ぶ。ここならしばらくは生きてられんだろう。
辺りはすっかり暗くなったので、一匹を咥えて第五要塞へと運ぼうとしたら、途中でドーガたちと会った。
「バルバ、食うか?」
「あ、いえ、食料はあるので大丈夫です。第五要塞の者に食べさせてやってください」
と言うので第五要塞へと運んだ。
「夜にすまんな。狩ったから食ってくれ」
「た、助かります。久しぶりにバルバが食えます」
そういや、バルバを狩って生きてたんだっけな。
「前、この辺にいたバルバはドーガたちでも狩れないくらい強かったんだが、お前らはそんなバルバを狩っていたのか?」
とてもドーガ並みに強いヤツがいるとは思えないんだが?
「我らが狩っていたのは普通のバルバです」
ん? 普通の?
よくよく聞くと、通常のバルバはデカいだけのニワトリで、集団で狩ればそれほど大変ではなく、十年前に現れたのは特殊個体が産んだ上位種とのことだった。
「特殊個体の親が産むと、子は強くなるんだ」
「必ずしもそうとは限りません。奇形や異常なのも産まれます。我らの集落を襲ったのは特殊個体の子だと思います」
それがミディアだったり頭のいいバリュードだったりするのか。そうすると、あの念動力を使う竜獣も特殊個体から産まれたかもしれんな。
「わかった。それならそう苦労はしないな」
まあ、前回もそれほど苦労はしなかったが、特殊能力があるかもしれん。油断だけはしないよう気を引き締めて当たるとしよう。
気をつけろと言い残し、ドーガたちと合流するべく駆けた。
合流してからは一緒に行動し、バルバドラ族から聞いた情報や猟兵たちが仕入れた情報を聞くことにした。
「前回のバルバは追いやられ、新たな群れが立った、ってことか」
自然界では当たり前のこととは言え、ボスが負けるとその群れは落ちぶれるとか、身が引き締まる思いである。
昼過ぎにボスらしきバルバを見たところに到着し、しばらく滞在できるよう溝を掘らせた。もちろん、オレも手伝う。
「荷車を持ってくるんだったな」
将来、第六要塞にするためにも資材を運んでこればよかったぜ。
「さすがに配置する人がいませんよ。コルベトラを離れたがる者は少ないですから」
そうだった。人が少ないから外れの村のヤツらをコルベトラに集めたんだったな。
放置したバルバを一匹運んできてドーガたちに解体させた。
「明日からオレは平原の奥にいってみる。お前たちはバルバを狩れ。ターダン、タボル、エドンたちに抜かれたくないのならな」
おそらく、こちらにいる猟兵たちのほうが実力はあるのだろう。いつまでも一軍でいられると思わないことだ。
「フフ。それは張り切らないといけませんな」
オレの言いたいことを理解し、不敵に笑うドーガたち。実力に伴う自負があるようだ。
「バルバは殺すのではなく、脚を狙って行動を鈍らせろ。どこまでやれば走るのが困難になるかを、な」
バルバの強さはあの強靭な脚だ。あの脚さえなければ飼い慣らすこともできるはず。越えられない溝を掘れば牧畜も可能なはずだ。
「お任せください」
不敵な猟兵たち。頼もしいことだ。
次の日の朝、バルバを一匹いただいてから平原の奥へと駆けた。
二時間ほど駆けると、大きな川にぶつかった。
「深くはなさそうだが、なんか細かいのがいるな。魚か?」
川の幅は約二十メートル。渡るのはそれほど難しくなさそうに見える。が、なにか生物の境界線みたいに見えるのは気のせいだろうか?
バルバドラ族の者は上流の細くなったところを飛び越えると言っていた。なにかに襲われるとな。
「まあ、バルバが渡ってんだから問題なかろう」
川に入ると、魚が集まってきた。
「ん? 噛まれてる?」
脚に当たる感覚はあるが、オレの毛を噛み切れるものはいない。なんかモソモソするなってくらいだ。
ちょっと強く放電すると、ピラニアっぽい魚が浮いてきた。ここはアマゾンか?
「確かにこんなのがいたら川なんて渡れんわな」
水を飲むついでにピラニアを食ってみる。
「お、なかなか美味いな」
今度、掬い網を作ってもらって捕まえるか。
川を渡り、また駆け出した。




