140 成長
平原を三十分くらい駆けてもモンスターの臭いは嗅ぎ取れなかった。
まあ、まだゴゴール族の区画。オレの毛を持って動いているから弱いモンスターはよってもこないだろう。
途中にあった要塞も往来が多くなったようで、いろんなものが増えていた。
「そう言えば、この辺の湿地帯に白いワニがいたっけな」
十分くらい駆ける場所にあったはず。ちょっと腹拵えしていくか。
二、三メートルのサイズだが、十時のオヤツにはいいだろう。喉も潤して起きたいしな。
方向転換して湿地帯へ。こいつらなに食ってんだろう? ってくらい白いワニが群れていた。
群れに雷を落とすと、数十匹が腹を見せた。弱っ。そして、味もいまいち。
「淡白だな」
肉食だろうに味が淡白とか意味わからん。もっと肉肉しいものが食いたいぜ。
それでも十匹くらいはいただき、三メートルくいのを咥えてドーガたちのところへ向かった。
第五要塞に着くと、そこはちょっとした村になっていた。え、いつの間に?
「ゴゴール族、思った以上にいるな」
千人くらいかな? と思ってたが、もしかすると千五百人はいるのかもしれんな。
何十億人といた世界から転生してきた身としては絶滅危惧種にしか思えないが、この過酷な地で千人以上群れるとか奇跡だよな。モンスターのいいエサでしかないよ。
「レオガルド様。ようこそお出でくださいましま」
ドーガたち猟兵が集まってきた。
「ああ。第五要塞、随分と賑やかになっているな?」
前に報告にきたとき、ドーガは第四拠点にいたのだ。
「はい。平原の向こうに住んでいたバルバドラ族がバルバに追いやられたそうで逃げてきたそうです」
バルバドラ族にバルバとか、ややっこしいいな。もっとわかりやすく区別しろよ。
「ゴゴール族、だよな?」
よくよく見ればゴゴール族より体毛が多くないか? 毛色の違うのもいるし。
「大長老によれば我々はかなり辺境にいるそうです」
「ってことは、ゴゴール族の町が他にもあったりするのか?」
「嘘か真かわかりませんが、何年も歩いた先に大きな湖があり、そこにゴゴール族、ゼルム族、ゴンド族が集まっているそうです」
「ゴンド族?」
また新しい種族が出てきたな。
「背丈は我々と変わりませんが、トカゲを人にしたような姿をしています」
それって、恐竜人間とかリザードマンとかみたいなヤツってことか?
「いろいろいるのだな」
まあ、オレもそのいろいろに含まれるんだが、知的生命体がそんなにいるって異常じゃないか? この星の命はいったいどんな進化過程を辿ってきるんだ?
「そうですな。我々も他種族と関わるようになって考えさせられています」
ほーん。槍ばかり振るっていたヤツがそんなことを考えられるようになってるてなはな。成長も著しいこった。
「その考えは遥か先、人間が続々とくるようになったときに役に立つ。滅ぼされたくないのなら、その考えは絶対に途切れさせるなよ」
「ええ。最近、レオガルド様の言っていることがわかってきました」
本当に成長が著しいな。そういや、口調も柔らかくなってるし。
「何人やってきたんだ?」
「今ところ五十人近くです」
「まだやってくると?」
「はい。平原を大きく迂回してやってきているそうです」
このだだっ広い平原を迂回、ね。生きて辿り着けるのか? 至るところに湿地帯がある。この平原、いないようで結構獣が生息しているのだ。
「平原の先は荒れてそうだな」
この大陸ではそれが命の営みなんだろうが、そこで生きる者には過酷でしかないわな。
「バルバのボスを見たのは?」
「我々の脚で一日走ったところです。前のよりは小さいものでしたが」
まあ、あのときのはSランクだった。
これまでの経験からAからSに上がれるのは長い年月を必要としたと思うし、たくさんの生存競争を経てきた者だ。早々強い存在にはなれないだろうよ。
「被害は出てないな?」
「はい。バルバもレオガルド様の存在を感じているようで、一日の距離から入ってきません」
まだランクは低そうだが、生存本能は高そうだ。
「猟兵は何人動かせる?」
「十人は動かせます」
まあ、ここは最前線。十人も動かせるだけ成長したってことだろう。
「用意が整ったらこい」
そう短く命令して駆け出した。
ゴゴールの脚で一日ならオレの脚で一時間くらい。バルバの臭いがしてきた。
「結構いるな」
あれから何年だ? 十年くらいか? その間にいろいろありすぎて記憶が薄くなってるぜ。
見える範囲にバルバの姿は見えないが、臭いは濃い。ちょくちょくきている感じだ。なんかエサでもあるのか? ってか、なに食ってんだっけ?
臭いを嗅ぎながら周辺を探る。
「お、でっかいミミズ」
少し湿地なところに一メートルくらいのミミズがいた。
「平原は肥沃なのかな?」
ミミズがいるところは土が肥沃と聞く。ここでも同じなら肥沃なんだろうな~。
「もしかして、こいつを食ってる?」
見た目はでっかいニワトリ。ミミズを食っても不思議ではないだろう。
周辺に向けて放電すると土の中から大量のミミズが出てきた。
「当たりかな?」
それを確認するために少し離れ、穴を掘って隠れ、バルバが現れるのを待った。




