139 また一難
電撃隊の隊長はエドンと言う男だ。
年齢は副団長候補の中では一番年上で、ドーガよりは下らしい。
「エドン。電撃隊になりたいヤツは何人だ?」
「おれを入れて十八人です」
半分以上か。猟兵よりランクが落ちると言ったのに、それでも選ぶとか、なにか魅力的なことがあったか?
「そうか。さすがに十八人では今回のような戦いはできんから、若いのを入れるか」
若いのを十数人いた。あれを足せば今回のような戦いはできるだろう。
「あいつらが承諾しますかね?」
「なら、猟兵となるためには電撃隊で働かないとダメとするか? そして、猟兵五人から認められたら猟兵試験を受けさせる、ってのはどうだ? 元猟兵より劣るようでは話にならんしな」
ランクを下にしたとは言え、特殊個体や準モンスターを狩る集団。そこで実力を出せないなら猟兵になる資格はないだろう。
「はい。それでいいと思います」
「なにか不都合や問題が出ればオレに言え。なるべく解決できるよう考えるから」
「助かります。レオガルド様が望まれた電撃隊。子や孫にまで伝わるものにしたいので」
「張り切るのはいいが、無理だけはするなよ。今は戦い方、戦術を確立させるよう訓練しろ」
まだまだ改善することはある。未熟なまま狩りをやって全滅では洒落にならんからな。
「そうだな。カルオンを護衛してマイノカにいけ。ゼル王に挨拶したらブランボルに戻り、そのあとはミナレアに向かって騎士団とともにバリュードを狩れ。オレから話ておくから」
騎士たちにハッパをかけるのと、防衛のカバーをさせるためにも電撃隊の訓練にもなるだろうよ。
「わかりました。騎士団を見たかったので都合がいいです」
「種族の違いから戦術も違うだろうが、学べることがあるなら余すことなく学んで自分たちの力にしろ。敵を知り、味方を知れば己の強さとなる。自分を最強と思ったらそこで終わりだ。常に上には上がいると思って己を鍛えろ」
傲慢や奢りは己を腐らせる。そんなことで貴重な戦力をなくしたくないわ。
「わかりました。レオガルド様に恥じぬものにします」
確かにオレのためにはなるが、そう強調されると不安しかない。ミディアがゴゴール族を苦手に思うのもわかると言うものだ。
……信仰心を持たせておいてそれは嫌だとか勝手だよな……。
「よし。ブランボルに戻るぞ。竜獣は持てるだけ持っていくぞ」
竜獣の肉はゴゴール族にも人気はないが、腹一杯は食えるし、調理次第では美味くもなる。無駄にしてはもったいない。オレは食わないけど。
オレも蔦で縛りつけた竜獣を背負い、ブランボルへと帰った。
あとの処理は任せ、オレはカルオンや長老たちと竜獣のことを報告する。
「これであちらへの採取が楽になります」
「採取? なにか重要かものが採れるのか?」
「はい。コノスノが採れます」
コノスノ? なんか前に聞いたような……?
「酒になる木の実です。あそこに群生しているのです」
「あぁ、酒か! 思い出した」
ゴゴール族がよく飲む酒の原料がコノスノだったな。
「はい。コノスノがなくなると大変なことになりますから退治されて助かりました」
だから猟兵たちがやる気に満ちてたんだな。オレへの信仰だけじゃなかったか。なんか恥ずかしいな。
「それと、ブレイブが現れました」
「きたか。意外と早い接触だったな」
「あちらもブレイブも竜獣に追われて困っていたようです。あいつらは群れで狩りをしますからブレイブとは言え、単独でいたら襲われますから」
「思いの他、厄介な存在だったんだな」
オレから見たら雑魚でしかないが、群れで獲物を狩る獣は厄介と言うことか。奢るなと言っておきながらオレが誰よりも奢っていたか。気をつけよう。
「それで、ブレイブはなんと?」
「考える、とのことでした」
「まあ、焦る必要はない。これまで通り、ブレイブと交流してくれ」
どうしても今ってわけじゃない。ゆっくりやっていけばいい。ボゥの一家とは仲良くやれてんだからな。
「わかりました。あちらもそのほうが安心するでしょう。臆病な種族ですから」
「そうだな。任せる。オレは秋まではいるからマイノカにいってこい」
一月もあればいって帰ってこれるだろう。
「電撃隊が抜けるが、ブランボルの守りは大丈夫か?」
若いのを混ぜて三十六人。オレが見回るとは言え、獣は襲ってくる。残ったもので守れるのか? いや、今さらで申し訳ないが。
「問題ありません」
「おれらで充分です」
とは、副団長候補のターダンとタボルだ。オレが見てないことがあるので呼びました。
「フフ。頼もしいことだ。頼むぞ」
「お任せください。猟兵の誇りに賭けて守ってみせます」
「無理はするなよ」
と言っても無理するだろうがな。まあ、ちょくちょく見にこれば大丈夫だろう。
他にもいろいろ話し合い、カルオンたちが旅立ったら平原へと向かった。
「レオガルド様! ドーガからバルバの群れにボスが立ったようだと報告がきました」
平原の村にきたらそんなことを言われた。
「被害は?」
「まだ出てはいないようです」
まったく、一難去ってまた一難か。いや、それは大森林の日常か。
「わかった。はぐれが出るかもしれん。警戒を怠るなよ」
「わかりました」
頷き一つして、ドーガたちのところへと駆けた。




