138 電撃隊(ライカーズ)
「まあ、こんなものか」
若いのだけで三十匹以上の竜獣を倒すことができた。
もちろん、無傷とはいかない。何人かは噛まれたり体当たりされて骨折したりしていた。
「どうだった?」
猟兵から見た評価を尋ねた。
「まだまだですな。個人の強さも集団としての強さも」
どうやら合格点はもらえない結果だったようだ。
「そうか。まあ、若いヤツらも自分の実力を知っただろう。次は大人の実力を教えてもらおうか」
ニヤリと笑えないのが表情筋のない獣の悲しさよ。
「ご期待に沿える実力を見せてみましょう」
大人たちの気配が一瞬にして変わった。おーやる気満々だな。
とは言え、特殊個体はオレが相手するので猟兵たちは、普通の竜獣を相手してもらうんだかな。
猟兵たちは三隊に分かれ、二隊は追い立て役。一隊は突撃役。竜獣をかき乱して特殊個体を炙り出してオレが狩ると言う作戦だ。
まあ、連絡が取り合えないのだから臨機応変に動きはするが、それでも竜獣の巣は蜂の巣を突っ突いたように騒ぎ出し、鳴き声や臭いがバラバラになっていた。
オレは走りながら臭いを嗅ぎ分けながら特殊個体を探した。
「いた!」
他の竜獣とは明らかに臭いが違う。と言ってもモンスターほどではないから、他の竜獣と一緒にいられると臭いが紛れてしまうな。
「──ッ!?」
姿を捕らえ、特殊個体がこちらを見た瞬間、薄い発泡スチロールを突き破った感覚を感じた。
「これが猟兵を吹き飛ばした力か」
オレにはなんの効果もないが、猟兵にしたら命を左右するくらいの威力だろうな。
何度も力をぶつけられるが、ただ鬱陶しいだけ。嫌がらせには最適な力だな。
「お前に恨みはないが、猟兵の向上のためになってもらうぞ」
すれ違い様に特殊個体の後ろ脚をナイフで軽く斬り裂いてやり、獣式アクセルターンをして、謎触手で打ち払ってやった。ってか、痛っ!
「猟兵! 雑魚はオレが狩る! 特殊個体をお前らで狩れ!」
あれだけ痛めつければ猟兵でも狩れるだろう。特殊個体の能力はわかっているんだ、それで勝てないなら再教育だな。
「レオガルド様の前で醜態を晒すなよ!」
「おう!」
「ターダン! おれの隊が囮になる!」
「ああ! おれらが狩る! タボル、援護を任せる!」
「任せろ!」
副団長候補はやはり優秀だ。すぐに自分らの役目を決めて不平を言ったりせず、狩りに移行した。
どんな狩りをするか見ていたいが、雑魚を狩るのがオレの仕事。猟兵に笑われないようにしないとな。
ナイフは仕舞い、手頃な枝を謎触手でつかんで竜獣の頭を殴り飛ばしていく。皮を傷つけると品質が落ちるので。
粗方殴り殺したら一ヶ所に集める。
「お前ら。動ける者は竜獣を解体しろ」
さすがに百体近いと運ぶのも大変。解体して肉はオレがいただくことにしよう。三十匹も食えば飽きそうだがな……。
若いのを呼びつけ、解体させ、十匹ほど食ったら猟兵の様子を見にいった。
特殊個体はまだ活きていて、猟兵たちに翻弄されている。隊を交換して訓練しているようだ。
「殴り飛ばしたのは余計だったかもな」
痛い思いもしなかったし。
「もう念動力を使える体力もないか」
いや、念動力が体力から生まれてくるものかは知らんけど、吹き飛ばすことはできてない。槍の攻撃を避けるのが精一杯のようだ。
やがて特殊個体の体力も限界に近づいており、まともに立っていられなくもなってきた。
「狩るぞ!」
その言葉で二人が槍を特殊個体の首に突き刺した。
大地に倒れ、しばらくピクピクしてたが、三分くらいして動かなくなってしまった。
「よくやった」
猟兵たちの前に出て、狩りを賞賛した。
「ありがとうございます。レオガルド様の期待に答えられてよかったです」
「ああ。期待以上だ。これなら準モンスターでもいけそうだな」
もしかすると集団戦はゴゴールのほうが優れているのかもしれん。声をかけ合い、お互いをフォローしながら狩りをしていたしな。
「猟兵のゴゴールの象徴だ。質を落とすわけにはいかない。入りたいと言って易々と入れるものでは困る。だが、お前らの戦いを狭めるのはもったいない。猟兵団を外れて電撃隊を組織したいと思う」
「……電撃隊、ですか……?」
「三十人前後の隊で、今日のような狩りをする隊だ。猟兵の下になってしまうが、特殊個体に特化させた隊として組織したい。電撃兵として名乗りを上げる者はいるか?」
準モンスターとでも戦える技術をなくすのはもったいない。これは残すべき戦術だろう。
「まあ、無理にとは言わんさ。もっとゴゴール族の数が増えてからでも組織すればいいのだからな」
と一歩引いてみる。
「なります! 雷撃隊としてレオガルド様の期待に応えさせてください!」
真っ先に副団長候補の男が名乗りを上げた。
こう言うときに声を出せるヤツは当たりだ。ドーガ並みに優秀なんだろうよ。
「おれも電撃隊になりたいです!」
「おれも!」
と、半分くらいが電撃隊になることを望んだ。
「いいか。オレが望んだとは言え強制ではない。自分で判断して決めたこととして誇りを持って挑んで欲しい。それと、猟兵として残った者の判断を貶すな。勇気ある判断だと尊敬しろ。どちらもゴゴール族に取って必要な存在なんだからな」
ちゃんとフォローしておかないといがみ合う火種になる。それだけは回避しておかないといけない。
「忘れるな。自分たちの判断と決断を誇れ! オレは誇りある者を愛する!」
ハァ~。この誇りが将来の問題にならないことを願うよ。




