137 若者たち
なんとかドーガに軽く説明し、バルバを一匹狩って朝まで戻ってころた。ふー。
「用意はできたか?」
「はい。あと、猟兵になりたいと言うものを連れいってよろしいでしょうか? どうにも抑え切れないので」
猟兵の後ろに若いのが数十人いた。
「血気盛んだな」
「血気ばかり盛んで困っております。森の恐ろしさを理解できなくて」
オレから見たら猟兵も血気盛んだが、若いのよりは長く生きているからまだ大人しいのだろう。
「まあ、だったら森の恐ろしさを教えてやればいいさ。死にそうになれば大人しくもなるだろうよ」
相手は竜獣。猟兵でも相手できる強さだし、今回はオレもいる。若いのが無茶しても死なせることはないだろう。
「ふふ。そうですな。しっかりと教えてやりましょう」
オレの言いたいことを察したのか、悪い笑みを見せる猟兵たち。悪い大人だ。
「よし。竜獣の巣の手前まで猟兵が先導しろ。これは副団長、いずれは猟兵団を率いる団長を見極める狩りでもある。心してかかれよ」
おー! と猟兵たちが雄叫びを上げた。
先頭を猟兵、そのあとを若いの、最後尾をオレがついて駆け出した。
「若造ども! レオガルド様がいるからと油断するな! 襲ってくるものは襲ってくるんだからな!」
隊長格の猟兵が若いのを思いやってか、注意を促した。
全力疾走に近いからか、若いのは返事ができないようだが、負けてられるかと歯を食いしばってついていっていた。
昼まで休むことなく駆け、干し肉と水を飲んだだけでまた駆け出す。まったく、大人げないな~。少しは加減してやれよ。
とは思いはしても口に出すことはせず、若いのは猟兵に任せた。
「よし。ここで夜営する。準備しろ」
本当に容赦ない。吐いてるヤツもいるぞ。
「オレは狩りをしてくる。頼んだぞ」
徹夜なので眠りもしたいが、途中でモンハドレ(蝸牛)の臭いがした。あれを食ってから眠るとしよう。
運のいいことに二匹いて、すべてを平らげさせてもらい、夜営地へと戻ってぐっすり眠った。
朝になり、塩の効いた干し肉と水を飲み、竜獣の巣の手前まで駆け抜けた。
「レオガルド様。ここより先は竜獣の領域です。入るとすぐに集まってきます」
広範囲の巣を作るのは獣よりだな。
「何匹か誘い出せ。今日の夕食にするから」
オレもあまり好みではないが、あまり派手に動くとオレの存在がバレてしまう。巣を捨て手逃げられたら面倒だ。
囮役と少し話し合い、待ち伏せの場所へ向かい、土をかけて臭いを消した。
これでオレの臭いが消えたわけじゃないが、頭に血が上った竜獣なら嗅ぎ分けが甘くなるだろう。
じっと待っていたら囮役がこちらへと駆けてくる臭いを嗅ぎ取れた。
目印に枝を刺していたので囮役は左右に分かれて駆け抜けていき、竜獣の臭いが強くなったら飛び出した。
皮は役に立つので放電で竜獣の動きを止めた。
「何匹か逃したな」
前は倒せたんだが、ゴルベトラ近くにいたのと違う種なのか? 見た目はそう変わりはないんだがな?
「解体を頼む。皮はそちらで使え」
狩れたのは八匹か。今日の分としては少ないが、まあ、眠るだけだし、こんなもんでいいだろう。
猟兵たちが解体したのを食らい、その日は眠りへとついた。
夜中に竜獣が近づいてきたみたいだが、オレに気がついて逃げたそうだ。
「警戒されたかな?」
「でしょうな。我々もレオガルド様の威圧に慣れましたが、狩りのときは恐ろしく感じますから」
「そうか? 気配は殺してるんだがな」
オレの霊力は凄まじいらしいが、狩りには邪魔なだけだ。気配を消すよう心がけているんだがな。
「なんと言うか、黒曜石のように鋭さがあります」
ナイフのような、とかと同じか? まあ、獲物には勘づかれるものじゃないならなんでもいいか。元々Sランクのモンスター。怖がれないわけないんだしな。
「しっかり食って竜獣を狩るぞ」
特殊個体がどんなものか確かめることもあるが、猟兵の選別と若いのの教育もある。確かめるのはついでにしてその二つを優先させよう。
「はい!」
まずは猟兵たちだけで巣へ突入──ではなく、臭いを誤魔化し、ギリースーツ的な感じにして忍び込み、竜獣の数を確認させた。
その間にオレは、少し離れて若いのをしごいてやった。オレも謎触手によるナイフの扱いを練習したいからな。
五日ほどして笛が鳴った。
「バレたか」
さすがに見つからず、なんて無理だ。竜獣もこの大森林で生きてるんだからいつかは気づくはずだ。五日もバレずに済んだのは猟兵の技術は凄いものだ。
「お前ら。訓練の成果をみせろ」
若いのは五人と六人の隊にして集団戦を学ばせた。今なら竜獣でも相手できるだろう。十匹以下なら、だけどな。
「やるぞ、皆!」
人が集まれば自然とリーダーシップをみせるヤツが現れるもの。そいつを仮の隊長にして竜獣を狩らせることにする。
こちらま笛を鳴らして猟兵たちを呼び寄せる。
「……三十匹以上か……」
笛で竜獣の数を知らせてくる。
「無理はしてもいいが、無茶はするな。仲間を信じて連携を忘れるな」
若いヤツらが黙って頷き、二隊に分かれて樹の陰に隠れたり、樹に登ったりした。
「さあ、くるぞ!」
かんばれよ、明日を担う若者たちよ。




