135 イチノエ
やはり、ゴゴール族はゼルム族より遅れていると感じざるを得ないな……。
オレの脳内変換でも追いつかないくらい説明が下手で表現が悪い。元々言葉か少ないのだからしかたがないが、報告会の意味をなしてない。
ゴゴール同士ならわかるのだろうが、オレでは理解が追いつかない。だが、今も原始的な生活をしているのだからとにかく話すことを日常にしなくてはならない。
まあ、ブランボルの代表となったカルオンはまだマシか。強さではなく弁の立つ者を代表と選んだのだろう。
原始的な生活を送っているとは言え、導いてきた長老たちは知恵を身につけているようで、オレが求めているのがどんなのか理解しているのだろう。それが救いと言えよう。
「他の者の話も聞きたい」
大勢の前に立たせてしゃべらせる。これを繰り返していこう。
「どねような者の話を聞きますか?」
「職人──木を削ったり組み立てたりするのが得意なヤツはいるか? 家を組むのが上手いヤツでもいいぞ」
カルオンが何人か呼び、オレが注文したヤツがいないかを話し合い、何人か呼び出した。
「しゃべるのが苦手な者もいよう。オレの質問に答えてくれ。知らないことは知らないと答えてくれて構わない。できないこともできないと答えても構わないから」
そう前置きして集まった者らにいろいろ尋ねた。
手が器用なヤツは凝り性だったり好奇心が強いヤツだったりする。まずはそれを見極め、家を組み立てるヤツには組み立て手順を聞き、なぜそうするのかを問う。
言葉足らずなヤツばかりだが、自分の興味があることには饒舌になる。それは、ゴゴール族にも当てはまり、こちらが尋ねないことまでペラペラしゃべり出した。
それを根気よく聞き、興味を持ち、すべてを聞いてやり、前世の記憶を披露したりする。
自分の仕事に興味をもたれ、認められることはゴゴール族でも嬉しいようだ。次々と自分がやっていることを教えてくれた。
まあ、お陰で時間はかかったが、報告会(?)は長くなり、仕事が滞りをみせ、カルオンから注意が入ってしまった。
「すまんすまん。つい話がおもしろくてな。人数を少なくしてやるか。今は、食料集めが忙しいか?」
そういや、ミナレアに出稼ぎにいくヤツもいたっけな。
「はい。畑を広げているので手が足りないくらいです」
「なにを植えているんだ?」
「人間に豆がよいと聞いたので豆を植えています」
「コルモアにはよくいくのか?」
「はい。今では塩なしの生活は考えられませんから」
そう言えば、ゴゴールも塩をよく摂取する種族だったっけな。
「あまり塩を摂りすぎるなよ。病気になるからな」
この世界の種族も摂りすぎて病気になるかはわからんが、摂りすぎないよう注意だけはしておこう。まだ医者がいない時代なんだからな。
「よく水を飲みすぎるようなら摂りすぎの前兆だ。気をつけろよ」
「わかりました。皆に言いつけておきます」
「とりあえず、三日くらい報告会は休みとしよう。オレもエサの確保をしないとならんからな」
報告会を続けられるよう半殺しにして広場の近くに放り投げていたが、頭をよく使うからか、いつもの量を食ってもうないんだよな。
「でしたら、平原でバルバを狩っていただけないでしょうか? また現れ始めたんです」
「バルバか。それもいいかもな」
熊を増やすためにもバルバを食うとするか。
「そう言えば、バルバを家畜化できているか?」
「いえ、エサの確保に苦労してまして、卵を産ませるだけに数十匹を飼っているくらいです」
ってことは騎獣にもできてないな。
「早々上手くはいかないか。まあ、無理せずやることだ。あれもこれも手を出したらなにも身につかないからか」
「はい。わかりました」
こいつは本当に理解力があるヤツだよ。
「お前、嫁はいるのか?」
年齢的にはいそうだが。
「はい。二人います」
あ、うん。二人いても不思議じゃないところだったな。
「そうか。よし。今このときよりお前は、カルオン・イチノエと名乗れ。家族にもイチノエを名乗ることを許す」
まだ爵位は与えられんが、氏名を与えるくらいの才能は秘めている。なら、今からゴゴール族を纏める者として目をかけておこう。
長老たちを集め、カルオンにイチノエの氏名を与えたことを告げた。オレがカルオンを高く買っていることを示すためにな。
「カルオン・イチノエ。これからもブランボルを纏め、レオノール国を支える指導者となれ」
「はい。レオガルド様に与えてもらったイチノエの名に恥じぬようレオノール国を支えていきます」
せっかくなのでブランボルの連中を広場に集めさせた。
「カルオン。オレの背に乗れ」
謎触手をカルオンに絡めて背に乗せた。
「よいか。守護聖獣たるオレが命じる。カルオンの下、ブランボルを発展させよ」
命令は過剰かな? とは思ったが、まあ、ゴゴールには指示より命令のほうが効果があるだろう。
前列にいる長老たちが跪くと、他の連中も倣って跪いた。
「カルオン。任せたぞ」
「はい。お任せください」
「猟兵たちよ。オレに続け」
カルオンを下ろし、視界に入った猟兵を連れて平原へと駆け出した。猟兵も目にかけてやらんとカルオンを嫉妬しそうだからな。
まったく、あちらを立ててこちらも立てるのは疲れるぜ。




