133 結婚
この報告会をやるのはいくつの理由がある。
まず、レオノール国で起こっていることを共有することだ。
輸送隊で情報を回してはいるが、元々原始的な暮らしをしていたヤツらに細々と情報を伝達できるはずもない。十あれば三も伝わればマシだろう。
それに、ものの単語がなく言葉が少ない。オレは脳内で変換してるが、ない言葉は相手に伝えられない。だからこの報告会は言葉を増やしていく場でありしゃべる訓練でもある。
ここには人間もいるので、単語や言葉の擦り合わせや文字に起こしたりと、とにかく時間がかかってしまう。
三日ほどして皆の集中力が切れてきたので、四日目からは午前中はオレの食事に当て、昼から暗くなるまで報告会と決めた。もちろん、間に休憩は入れる。そうやって報告会の在り方も作っていった。
十日ほど続いたら、一旦報告会を止める。各自で理解を深め合うための時間を作ったのだ。
オレもそれぞれのグループに入り、細々と説明したり相談に乗ったりする。
特にルゼやジュニアには時間を割いた。この二人が理解しないと国の運営はできないからだ。
「……頭が溶けそうです……」
そう言ってルゼが熱を出して倒れてしまった。
ゼルム族もストレス性高体温症を起こすんだな。まあ、頭は人と変わらんのだからなっても不思議じゃないか。
「少し無茶をさせすぎたな。しばらく休め」
付き添いの女たちに看病を任せ、オレはジュニアとラゼたちと続けた。
ラゼは日頃から頭を使っているからか、オレの説明も聞き続けられ、理解力もどんどん成長していった。
「お前は長生きしてレオノール国を支えてくれよ」
ゼルム族の寿命はわからないが、最低でもあと三十年は生きてレオノール国のために働いて欲しいものだ。
「そうですな。長生きしてレオガルド様が見ている国を見てみたいものです」
「長生きするのもいいが、ちゃんと嫁をもらって子をなせよ」
驚いたことにラゼは独身なのだ。
「さて。おれは女に嫌われてますからな」
「そうなのか? オレから見ればいい男だと思うんだがな」
多少、いや、かなり変わった男ではあるが、強くて賢い。長老の誰かが女をあてがうものだがな。
「レオガルド様にそう言ってもらえるとは光栄ですな」
「よし。オレから長老たちに言ってやる。嫁をもらえ」
「レオガルド様!?」
思い立ったら吉日とばかりに長老たちのところへ向かった。
旧ミナレアの長老たちは十人くらいいるが、報告会に参加できる元気な長老は四人だけ。その四人を館に呼んだ。
「旧ミナレアの女からラゼの嫁を選んでくれ。ラゼは将来ジュニアの横に立つ男だ。その男に相応しい女を頼む」
年老いてはいるが、長年ミナレアの民を纏め、導いてきた者たち。オレの言いたいことは察しただろう。
まあ、細かく説明してもいいのだが、そうするとオレの意向が強くなる。それだと長老たちの意向が小さくなる。ミナレアの気持ちを抑えるためにも長老たちが選んだほうがいいだろうよ。ルゼばかり強くなると旧ミナレアの者を蔑ろにしていると思われても困るからな。
「わかりました。少し若いですが、健康な者がいます。その者をラゼ殿にあてがいましょう」
この時代と言うか、ゼルム族の結婚観は強者の理論。強い者、発言権がある者の声が優先される。女もそれに従うしかない。
フェニミストが聞いたら怒髪天だろうが、それがこの時代のゼルム族。恋愛は難しい時代なのだ。
「ラゼにはオレから言っておく」
言っておくもなにもラゼに拒否権はない。偉くなると結婚も義務になるのだからな。
「……ハァー。わかりました」
ラゼもわかっているようで、諦めにも似た了承をした。
「少し、頭を冷やしてきます」
「ああ、好きなだけ頭を冷やしてこい。ただし、冷やしすぎるなよ」
どこを、とは聞かんでくれよ。ただ、男は熱くさせないといけない場所があると言うことだ。オレは一生熱くさせることはないがな。
あとのことは長老たちに任せ、次にルゼの配下となった者らと話し合いをすることにした。
頭ばかり知恵をつけても手足が動かなければ国は回らない。人間たちも混ぜてルゼをどうサポートさせるかも交えて話し合っていった。
ルゼも回復し、また報告会を再開させた。
今度は二日やって一日休むを決め、無理しないようにやっていった。
それでもあまり上手くはいってないが、慌ててもしょうがない。地道に、数を重ねていくしかない。まだ人間たちが大挙してやってくるには時間があるだろうからな。
そうこうしてたらラゼの結婚も決まった。
相手にはまだ少女と言った年齢だそうだが、タリューと言う氏族の娘で、ミナレアでは発言権のある氏族でもあるそうだ。
マイノカからラゼの一族を連れてきて、オレが立ち会いのもと、二人の結婚を祝福した。オレがラゼを高く買っていることをミナレアのヤツらに知らせるために、な。
謎触手を二人の頭に乗せる。
「ラゼ。妻を支えるよき夫になれ」
「はい」
「ミニーツ。夫を支えるよき妻となれ」
「はい」
「その言葉、レオノール国の守護聖獣たるオレがしかと聞いた。違えるなよ」
「「はい」」
二人の頭から謎触手を離し、集まった者たちへと向いた。
「明日のレオノール国を支える二人に祝福あれ!」
手順通り、二人を祝福する声を挙げさせた。




