132 報告会
報告することが多くて陽が落ちても半分も伝えられなかった。
「また明日にしよう」
今日はパプパプ(芋虫)を食ったから狩りに出かけなくてもいいが、しゃべりすぎて喉が渇いた。こう言うときビールが飲めたらいいのにな~って思うよ。
川へと向かい、綺麗な水をたっぷりと飲んで喉を潤した。あー美味い。
水を飲んで美味いと感じる獣舌。やっすい舌だよな。
血の滴る肉で喜び、水を飲んで満足している。グルメ舌でなくて本当によかったぜ。
久しぶりに体を洗うかと水浴び場へと向かうと、篝火を焚いてゼルム族の女たちが水浴びをしていた。
「レオガルド様、水浴びですか?」
オレに気がついた女が声をかけてきた。胸、丸出しで。
ゼルム族も胸を隠すし、異性に見られたら恥ずかしいと言う感情もある。が、獣の前ではそれが働かないようで、誰も胸を隠す者はいなかった。いやまあ、それは昔っからだけどな。
「ああ。十日近く入ってなかったからさっぱりしたくてな」
蚤とかは放電でつかないようにしてるが、多少なりとも汗はかく。長いこと放っておくと痒くなるんだよ。
「では、わたしたちがお洗いしますね」
と、木製のレーキを持ち出してオレの体を洗ってくれた。
鉄製のレーキより気持ちよくはないが、マッサージだと思えばそう悪くもない。あ、顎の下、もっと強くお願いします。
「もういいぞ。あまり水に浸かっているのも体に悪いだろうからな」
春になって水も温かくなったが、それはオレの感覚でのこと。ゼルム族にはまだ冷たいだろうよ。
「はい。火を焚きますか?」
「そうだな。乾かしておくか」
体を振ればあるていどは水分を飛ばせるが、レーキで梳きながら火で乾かすってのもリラクゼーション的な感じで気持ちいいんだよ。
四隅に火を焚いてもらい、十人がかりで木製のレーキで梳いてもらった。
「レオガルド様。お腹を向けてください」
「あいよ」
服従のポーズになって腹回りを梳いてもらった。あそこが丸出しなのはご愛敬で。
「ありがとうな。気持ちよかったよ」
さすがに夜も遅くなったので神殿に向かった。
ミナレアの神殿を守るのは霊司教のザザ。巫女長はゼルム族のレダ。数十人の巫女と二十数人の守人が迎え入れてくれた。
「世話になるな」
「はい。ごゆるりとお休みください」
ザザもここでの暮らしが落ち着き、ゼルム族との関係も良好のようで、雰囲気は悪くなかった。
ザザからも神殿の様子を聞きたいが、あれもこれもと手は回らない──が、放っておくのもできないので、ルゼとの報告会にザザとレダも参加させることにした。
明日のためにもぐっすり眠り、朝早くに起きて第二次防衛線へと駆けて狩りへと出かけた。
レブやチェルシーは近くにいないようで、やってくる気配はなし。かなり離れた場所にいるようだな。
レブのような感応力もなくミディアのような嗅覚もないオレは脚で獲物を探し、油断していた単独の準ランクのバリュードと遭遇。気づかれる前に四肢を風の刃で切り落としてやった。
「単独とは珍しいな」
準ランクなら先遣隊を率いてても不思議じゃないんだがな? 新たにきたヤツか?
毛は銀。艶の状態はいい。四肢を切り落としてもまだ生きてる生命力。かなり群れの上にいる感じっぽい。
「若いのが力を示すためにきたのかな?」
モンスターにも性格はある。血気盛んなヤツ、臆病なヤツ、賢いヤツ、いろいろだ。
こいつは間違いなく血気盛んなヤツだろうな。
「群れる習性があるのに群れから外れてどうするってんだか」
準モンスターなんてまだ狙われる立場だ。単独で動くなど浅はかとしか言いようがないな。
準モンスターになると運ぶのは大変だが、このサイズの毛皮は利用価値がある。なので、面倒でもミナレアへと運んだ。
「これの解体を頼む。肉はオレが食うから」
騎士団の基地へと運び、待機している騎士に解体させ、肉はオレがいただいた。ゲフ。
「しばらく訓練に参加できんが、頑張ってくれ」
「わかりました!」
騎士のほうも見なくちゃならんが、こちらは試験や訓練は騎士団で頑張ってもらおう。優先度は低いからな。
水浴び場で軽く体を洗い、自らの風で毛を乾かした。
一旦神殿に戻って巫女たにレーキで梳すいてもらい身嗜みを整えた。
身嗜みが終わればザザとレダを連れてルゼが住む館(と言ってはおこがましいけどな)に向かった。
館の外に集会所(元広場)が作られており、オレが寝そべれるようにバリュードの毛皮が敷かれていた。
……オレではなく他に使って欲しかったんだがな……。
まあ、せっかくオレのために用意してくれたのだからありがたく使わせてもらうとしよう。
「では、報告会を開始したいと思います」
なんか進行役になったジュニアの補佐、ラゼが輪の中央に立って仕切り出した。
……ちゃんと自分の立場を築いているようだな……。
「レオガルド様。なにかお言葉を皆に」
教えてないのに報告会の形を作るとか、さすがとしか言いようがないな。
「ルゼ公爵を筆頭に皆のがんばりを得てミナレアは発展した。一人一人は弱くても集まればこれだけの力を起こせると言ういい証拠だ。これからもレオノール国のために皆の力を出し合ってくれ。以上だ」
オレに名演説は求めないでくれ。強いだけでカリスマ性はないんだからよ。
「ありがとうございます。では、まずわたしから報告致します」
こうして報告会が始まった。
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