129 ライザー
なかなか優秀なのが侵入してきてんな。
一日かけて臭いを探るが、所々で川に入って臭いを消している。確実に追われるのを考えて行動してるな。
だが、お前を追うのは頭脳は人。体は獣。神獣レオガルド! 獣な知恵でオレから逃れようなんて百年早いんだよ!
頭の中に地図を開き、マイノカ、ミレアナ、ブランボルの町を置き、知る限りの川と水場、主な獣の分布を描いた。
バリュードは肉食。それはAランクでも小型クラスでも変わらない。変わるとしたら狩る獲物の大きさだろうよ。
足跡や糞からして体長は三メートルくらいか? 準と小型の間くらいだろうか? 知恵だけで言えば特殊個体なんだろうな。
それでも行動から獣の本能は捨てられていない。糞を隠蔽することもなく、樹で爪を研いでたりもする。狩った獲物も食い散らかしたまま。そう言った細かいことまでできてないのだ。
獣は一度満腹まで食えば二、三日は食わなくても行動できる。ちなみにオレは毎日食わないと体を維持できない。強くなればなるほど食う量が増えるのだ。
「跳躍力もかなりあるな」
樹の上に住む金色猿を狩っている。
辺りを探ると、樹に爪跡があり、抉り方からして脚力があるのがよくわかった。
「前足の爪、結構鋭いな」
金色猿の切り裂き具合もなかなか。オレの爪に匹敵しそうだな。
それに引き換え顎の力は獣並みだな。噛み千切るのが力技だ。
「内臓を好むのはバリュードの特性か」
ミディアも内臓系を好んで食っている。種としての好みは同じなんだな~。
「食ったばかりだから一日二日は追いかけっこだな」
血が乾いてないところからして一時間から二時間前ってところだろう。ちょっとずつではあるが追い詰めてるな。
地面を探り、逃げたほうへと駆け出した。
しばらくして追跡しているバリュードの臭いが強くなった。
……近くにいるな……。
また川に入られて臭いは途絶えたが、臭いの濃さから半径百メートル以内にはいるのは確かだ。
オレは吠えるってことをしないので、ドデカい雷を放ってオレの存在と力をバリュードに教えてやった。
「動かないか」
慌てて逃げることはしないか。多少なりとも自制できる精神力はあるようだ。
しばらく様子を見るが、あちらは動こうとしないので、一旦その場から離れた。
オレもずっと追いかけるなんてことはできない。食うものを食わないと追うこともできないんだよ。
手頃な感じの大蛇を発見。絡まれながら食っていると、ミディアの臭いが流れてきた。
「オレも嗅覚が鋭いといいのにな」
身体能力や呪霊はSSSランクなのに嗅覚は準モンスターにも劣る感じがする。強者故の欠点だろうか?
ミディアとライザーはすぐにオレを発見した。
「レオ、探したよ!」
「すまんすまん。ちょっとアクシデントが起きてな」
「あくしでんと?」
「思いもよらないことが行ったってことだ」
いかんいかん。つい、元の世界の言葉を使ってしまったわ。
「なにがあったの?」
「特殊な力を持ったバリュードに侵入されて、二日前から追っているところだ」
軽く説明してやった。
「レオから逃げるって凄い」
「上には上がいるってことさ」
最強生物だからって万能とは限らない。できることできないことはあるものだ。そのことで劣等感など生じない。事実は事実として受け止める知性は持ち合わせてるさ。
「わたしもやりたい!」
「それは構わんが、ライザーはおいていけ。疲れてるぞ」
まだライザーを思いやられるほど理性は鍛えられてないようだ。
「ライザー。レオと一緒にいて」
「わ、わかった」
謎触手でライザーを絡め、オレの背に乗せてやった。
「ミディア。あまり遊びすぎるなよ」
こいつは集中しすぎると周りが見えなくなるクセがある。ライザーと言う枷がなくなればすぐ我を忘れてしまうだろうよ。
「わかった!」
わかってないときの返事だが、被害を負うのはバリュードである。好きに遊んでこい、だ。
「ライザー。今日は食べたか?」
レブが教えたのか、ちゃんと食料や道具を詰めたバッグを背負っているが、ミディアの気分で移動してるはず。そうなったら碌に食事なんてできてないはずだ。
ベイガー族も体が大きいのでそれなりの量を食う。雑食なので、ミディアが狩った獲物も食えるだろうが、ライザーに合わせて、なんてしてないはずだ。
「あ、いえ、まだです……」
「やっぱりな」
レブとは違い、ライザーにミディアを御することはできない。ミディアがライザーを気に入ったから背に乗せてるだけでしかないからな。
……見た目はこれでもライザーは子供だしな……。
「ライザーは、魚を食ったことはあるか?」
農業村にはいくつもの川がある。確か、それなりの魚は泳いでいたはずだ。
「はい。よく食べます!」
なんだ? ライザーは魚好きなのか?
「じゃあ、ナマズでも狩るか」
「ナマズ、ですか?」
ベイガー族でなんと呼んでるかわからんので、近くの沼地に走って雷を放った。
「あれだ」
一メートルくらいのが二、三匹浮いてきた。
「泥魚ですか」
ナマズは泥魚って呼ばれてんだ。
「食ったことあるのか?」
「はい。内臓は小さい蟲がいるので身だけしか食べませんけど」
寄生虫って概念はないが、経験で食っちゃダメとはわかっているんだな。
ナマズを謎触手で絡ませ、陸に上げた。
「捌けるか?」
「はい。村でよくやってました」
黒曜石のナイフを出して、スムーズにナマズを解体していった。お見事。
火を起こし、ナマズの身を串に刺して塩を振りかけて焼いて食べるライザー。
「美味いか?」
「はい。美味しいです!」
やはり種族による味覚は違うんだな~。
なんてことを考えながらライザーを守るように寝そべり、美味しそうに食うライザーを眺めた。
魔女のグルメ旅、よろしく。




