126 意志疎通の大切さ
熊を五十匹以上食って完全回復できた。
「オレの糧になった熊たちよ。君らの命を無駄にはしないよ」
合掌ができないので頭を下げて熊たちを弔った。
しかし、霊力が命と直結しているとは夢にも思わなかった。知ったからには対策を練らなければならん。これは弱点になり得ることだからな。
「ってか、いつの間にか雪が解け出したな」
曇空だった毎日が太陽が出る日も多くなってきた。もう、レオノール歴十七年が到来してたな。
コルベトラに戻ると、こちらはすっかり雪が解けており、春に植える畑を耕し始めていた。
「レオ様!」
現れたオレを真っ先に見つけたレブがダッシュで駆けてきて、ジャンプして抱きついてきた。
「心配かけてすまんな。なにか問題はあったか?」
レブの教育が完全に失敗してしまった。またギギにがんばってもらうとしよう。
「レオ様、大丈夫なの?」
「ああ、完全に回復した。次の冬は獲物に困りそうだがな……」
絶滅はさせてないが、五十匹以上も狩ってしまった。数が復活するまで数年は必要だろうて。
……この世界の熊、繁殖力なさすぎだ……。
「ミドア。いろいろ手間をかけさせたようだな」
きっとレブのことで苦労しただろうよ。
「まあ、手間はかかりましたが、レブ様がいてくれたお陰でブレイブとすんなりと話ができて助かりました」
「人間たちは、ちゃんと受け入れていたか?」
「さすがに大きさが大きさなだけに気軽に、とはいきませんが、悪い感情はありませんよ。レブ様は人懐っこいですからね」
それはギギががんばってくれたからだろう。ギギも人懐っこいからな。
「ブレイブはどうした?」
「集落予定地で開墾してます」
と言うので、レブを背に乗せ、ミドアたちを連れて向かってみた。
ブレイブが住めるほど開墾はされてないが、オレが伐った樹を加工してテーブルや椅子などを作っていた。
それに蔦や針葉樹の枝葉を使って家まで作っている。ブレイブ、思った以上に器用な種族だな。
「すまんな、放置して」
「構わない。獣に怯えなくて済んでいる」
熊に飽きて竜獣や狼も食ったので、この近辺には肉食獣はいなくなった。さぞや平和な冬だったことだろう。
「オレらはいなくなるが、まずは自分らの住む場所を作ることを優先しろ。食料は運ばせるようにするから」
働いてもらうのはボゥたちの生活基盤が整ってからでも充分だ。
「ミドアとはよく話し合え。悪いようにはしないから」
「わかった」
ミドアにもよく話し合うよう言い含めておく。
「報告はマイノカに送ってくれ。ゼル王にも伝えておく。可能ならコルベトラにもいくよう伝える」
「王も大変ですな」
「それが王と言うもの。レオノール国で暮らす民のために走り回ってもらおうじゃないか」
オレが生きている間は城でふんぞり返っている王にはさせない。国中を走り回って民のために働いてもらう。
「レオガルド様。仲間、呼んでいいか?」
「それは構わんが、仲間を呼びにいくのも大変じゃないのか?」
「いつものことだ」
まあ、ブレイブのことはボゥに任せるとしよう。まだ、ブレイブのことなんも知らんのだからな。
一応、ボゥたちの暮らしを観察させてもらってからマイノカへと戻った。
マイノカは、まだ雪が残り、コミーの皮を鞣す作業がまだ続いていた。
「お帰りなさい、レオガルド様。なにかありましたか?」
オレの頭にしがみつくレブを見て、なにかあったことを悟るギギ。聡い子である。
「霊力を使いすぎて死にそうになった」
霊司教のザザに聞きたいところだが、ジュニアともどもミナレアに置いてきた。あ、他にも呪霊師がいたな。あいつらなら知ってるかな?
「今はなんともないんですか?」
「ああ。熊を百匹以上食って元に戻ったよ。チェルシーやミディアは?」
あと、ライザーも。
「一度帰ってきましたが、レオガルド様とレブがコルベトラにいったことを告げたら安心したのか、また農業村へと戻っていきました」
あちらも自由にやってるな。ってか、チェルシーとミディア、ちゃんと意志疎通できてるんだ。オレはレブがいないとチェルシーと意志疎通もできんのに……。
「春には帰るとも言ってました」
今は二月終わりくらいの陽気だ。あと一月は帰ってこないかもな。
「ギギはブレイブと言う種族は耳にしてるか?」
「はい。ゴゴールと交流がある大きな種族、とは聞いてます」
あ、知ってたんだ。ゴゴールたちよ、オレにもちゃんと伝えておけや。ってまあ、ゴゴールとも意志疎通できてなかったオレが悪いか。
「そのブレイブの一家をレオノール国の民とした。知っている者を探してどんな種族かよく聞き出しててくれ」
ゼルム族もブレイブとは交流があるはず。事前情報を仕入れておこう。
「チェルシーたちが帰ってくるまでに話を終わらせておくか」
ゼルや長老たちを集め、ブレイブのことを説明し、時間を見て視察にいくようにも伝えた。
他にもいろいろ話していたら季節はすっかり春となり、チェルシーたちが農業村から帰ってきた。
その頃にはレブも落ち着き、チェルシーの背へと移ってくれた。それまでずっとオレの背に跨がってました。
「サンテラール、美味しかった」
サンテラール? なんじゃそりゃ?
「尾の長い白毛の熊です。なんでも群れで移動するようで、農業村にやってきたんです」
とはライザー。お前、結構饒舌だったんだな。
「ミディアとライザーは一足先にミナレアへいってくれ。レブとチェルシーはブランボルに。オレはコルモアにいってからミナレアへ向かうから」
さて。レオノール歴十七年はどんな年になることやら。ハァー。
魔女のグルメ旅、書かないと。




