125 獣の本能
やってきたブレイブは三人。男二人と女一人だ。
顔は牛だが、体は人間(?)。ホルスタイン級の胸を持つ者が一人いるんだから女だろう。違ってたらこの世界に中指立ててやるよ。
……オレの前足、結構器用なんだぜ。獣としては、だけど……。
「決めたか?」
ボゥの臭いがする者へと尋ねた。いや、顔の区別できねーな!
「決めた。レオガルド様に従う」
三人が両膝を地面につけて頭を下げた。
「いいだろう。ブレイブをレオノール国の民と認め、オレが守護するものとする 。ミドア。お前が証人だ」
「はい。しかと聞きました」
大した儀式でもないが、ブレイブを安心させるためにはやっておいたほうがいいだろう。コルベトラのヤツらも見てるからな。
「他の家族は?」
近くにいる臭いはしない。置いてきたのか?
「子供は足が遅いから置いてきた」
力はありそうだが、俊敏そうではない、か。
「では、戻って連れてこい。お前たちが住む場所を用意する。川の近くにブレイブの集落を作るとしよう」
「……わかった」
「レブ。ボゥについてってくれるか?」
ゴゴールたるレブがいれば安心もするだろうよ。
「わかった」
いつもの旅セットを持ちにいき、万全の用意でボゥの背中へと飛び乗った。
「ボゥたちって、ほんと木々の匂いがするよね」
モンスターから見つからないよう臭いを隠しているようで、体臭は極めて薄い。オレの鼻でも十メートルくらい近づかないとわからないくらいなのだ。
ボゥたちの家族を連れてくるまでに集落にいいかな? って思っていた場所に向かい、風の刃で樹を伐採する。
まあ、伐採と言っても樹齢何百だよ? って樹ばかりなので一発で伐ることはできない。十数回かかって倒しています。
切れ味抜群の爪で地道に削っていき小分けにする。
「ふー。ざっとこんなものよ!」
人間なら数十人で一月はかかろう仕事量だろうが、SSSランクのオレにかかれば小一時間で伐採、小分けにできた。
「とは言え、熊一匹分のエネルギーは使った感じだな」
燃費はいいと思うが、ブレイブが住める集落となると最低でも五十本は伐らんとならんだろう。さすがに一冬だけでは集落は完成しないな。
熊を食い尽くすわけにもいかんし、徐々にやっていくしかないか。
ボゥ一家がくるまでに十本は伐れたが、霊力が空に近いようで、これまで感じたことがない寒気と目眩に襲われていた。これ、マジヤバいやつだ。
「レオ様、どうしたの!?」
「……調子こいて霊力を空になるまで使った……」
心配そうにするレブ。
「まさか霊力を使いすぎるとこうなるとはな」
これまで使い切るほどの敵はいなかったし、使い切ったこともなかった。体力とは違った疲れだ。
もしかすると、霊力と命は繋がっているのかもしれないな。霊力が切れたら死ぬとか、オレと同等のが現れて死闘なんかしたら確実に死ぬな、オレ……。
「レオ様、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。まあ、体に力が入らんので、しばらく休む」
まったく動けないほどではないが、狩りをするほどの気力はない。三日は安静にしてよう。ダメならそのときに考えよう。
集落予定地の端に移動し、謎触手で雪を払って巣を作り、眠りについた。
次に目覚めると、四日が過ぎていた。マジか!?
「レオ様~!」
鼻先で号泣するレブ。相当心配させたようだ。
「すまんすまん。まさか四日も眠るとはな。想像以上に無茶したようだ」
心配はかけたが、死闘でなかったことが救いだろう。安心して四日も眠れたんだからな。
「さすがに腹が減った。コミーでいいから持ってきてくれ。あと、水も」
四日も食わず、回復に体力を消費したようで謎触手すら動かすのも億劫だわ。
しばらくして解体されたコミーを男たちが運んできてくれ、ボゥがデッカイお椀に水を汲んできてくれた。
「ありがとな」
コミーを口ん中に放り込んでもらい、ムシャムシャと食らった。
「まさかコミーを美味いと感じる日がくるとはな」
それに、弱った胃に優しい。コミーはオレに取ってのお粥だな。
水もすべて飲み干しホッとできた。
「落ち着いた。もう少し眠る」
胃が満たされたら睡魔が襲ってきた。
すーっと眠って目覚めたら二日が過ぎていた。どうやらオレは眠って回復する系の獣のようだ。
積まれた魚を謎触手でつかみ、スナック感覚でいただいた。
眠ったことで霊力が元に戻ったようで、魚を食べれば食べるほど腹が空く。すべて霊力へと持っていかれるようだ。
「レオ様、大丈夫なの?」
「ああ。回復したようで腹が空いて理性がなくなりそうだ」
これまで野生を理性で従わせてきたが、空腹により獣の本能が抑えられなくなっている。
「熊を食ってから保護区にいく。二日か三日は帰ってこれないと思うからブレイブのことは頼む」
そう言って狩りへてと駆け出した。湧き出る獣の本能を狩りで満たすためにな。
食って食って食いまくるぞ、ウガー!
魔女のグルメ旅、よろしく。




