122 ボゥ
ブレイブ──いや、この男は、ボゥと言うそうだ。
ボゥの話では、ゴゴールが住む方向から流れてきて二年くらい前からこの周辺に住み着いたそうだ。
ブレイブ族は家族単位で動くようで、兄と兄嫁、二人の子、ボゥの嫁と四人の子、ボゥの妹がいるそうだ。
今回の雪が多くて、バラけて食い物を探していたら雪に隠れていた倒木を踏んでしまい、滑った勢いで下敷きになったそうだ。
「ブレイブは結構いるのか?」
「森の奥、さらに奥にいる。今もそこにいるかはわからない」
暦がない一族なので、何年前かはわからないが、下の娘が産まれた頃と言い、指六本の冬を越えたとのことだった。
「よく家族が途絶えないな?」
「一人前になったら嫁を探す旅に出る」
運よく家族の一団を見つけられ、その家族の長に強さを示して娘をもらうそうだ。
まあ、単独行動の獣もそうだから不思議とは思わないが、よくそれで滅びないでいられるよな。よく子を産める種なのか?
「お前らが望むならオレらのレオノール国の民にしてやる。もちろん、食うために働いてもらうし、レオノール国の決まりを守ってもらうがな」
「そうしなよ。レオノール国なら食べるものあるよ」
この図体なら相当食うだろうが、この図体は開墾の役に立つだろう。重機だって燃料がかかるんだから許容内だ。ゼルム族のように菜食じゃなく、肉も魚も食えると言う。それならコルベトラの近くに住んでもらい、人間たちの護衛となってもらおうじゃないか。
「……兄と話し合いたい……」
「ああ。話し合って決めろ。人間がいる場所はわかるか?」
「わかる。臭いが流れてくる」
鼻がいいんだ。コルベトラまで十キロはあるだろうに。
「竜獣はやる。まあ、その体で足りないだろうが、ないよりはいいだろう」
ボゥの図体からしたらフライドチキン四ピースくらいだろうが、これ以上そのケガで食い物を探すのも大変だろう。子供には食わせてやれ。
「人間たちにはお前たちのことは伝えておく。安心してくるといい」
「……わかった……」
「あ、冬眠していない熊がいるから気をつけろ」
身長が四、五メートルあり、大木のような手足があるんだから心配してはないだろうがな。
レブを背に乗せ、コルベトラへ。オレの脚なら目と鼻の先。五分もしないで到着した。
冬の間は港造りをしているので、森側には誰もおらず、深い雪に覆われていた。
「少し雪かきしておくか」
風を使って雪を払い、村の中心部へと向かうと、雪かきに気がついた者らが集まってきた。
「レオガルド様、どうしました?」
雪かきが謎に思えたようで、集まってきた男らに尋ねられた。
「森で新たな種族と遭遇してな、もしかするとコルベトラにくるかもしれん。ミドアを呼んでくれ」
「わかりました!」
コルベトラにあるオレの寝床へと向かい、集まってきた女らにレブを紹介する。
「ここにも神殿を作らないとな」
人間の女が少ないので巫女を配置するのら難しいが、オレの御神体を置くだけでも違うだろう。ないってのもコルベトラを軽視していると思われても嫌だしな。
「レブ。村を案内してもらえ。頼むぞ」
ミドアの嫁がいたのでお願いした。
「はい。わかりました」
レブたちが出ていくと同時にミドアがやってきた。
「すまんな、仕事中に」
「いえ、構いません。なにかあったそうですな」
「ああ。実はな──」
と、竜獣やブレイブのことを話した。
「ブレイブですか。そう言えばゴゴールの者から聞いたような気がします。体の大きい種族がいると」
そう言えば、直接塩を買いにきてたっけな。最近見てなかったから忘れていたよ。
「その大きな種族が加われば港造りも捗るだろう。開墾も進めれば農地も広がるだろうからな」
コルベトラでも自給自足はさせたい。次の開拓船団が押し寄せる前にな。
「ブレイブは乗り気でしたので?」
「悩んではいたが、断られても問題はない。ブレイブがいるとわかれば備えていけばいいんだからな」
いずれ開拓が進んでいけばブレイブとの接触は必ず出てくる。今回断られても次に活かせばいいだけだ。
「いつもながら先の先を考えますな、レオガルド様は」
「心配性なだけさ」
「ふふ。レオガルド様が人間ならさぞや名君になったでしょうな」
「王なんて面倒なことはゼルに任せるさ。なんならミドアが王をやってもいいぞ。王をするなら人間が適しているしな」
「ご冗談を。いくつもの種族を従えて、大国相手に陣頭指揮などごめんですよ。わたしには精々男爵がいいところですよ」
己の力量と立場を弁えている。本当に賢い男だよ。
「まあ、コルベトラが大きくなれば地位も上がる。今のうち伯爵になる覚悟を決めておけ」
セオルとミドアはもう重要な存在だ。もっと仕事をしてもらわないとならないんだから能力を向上させておけ、だ。
「人使いの荒いお方だ」
「フフ。できる男なのを呪うがいい。嫌なら子供を育てて後を継がせるんだな」
「まったく、口も上手いお方だ」
そうは言いつつ満更でもない笑みを浮かべるミドア。認められることが嬉しいんだろう。人間は扱いやすくて楽だよ。
「それと、レブに文字や計算、人間の歴史なんかを教えてくれるか? どうもヤトアに戦い方を習っているせいか、頭で考えることが苦手になっている。手遅れになる前に頭で考えられるようにしてくれ」
もちろん、オレも教えるが、人間から学ぶことも教えておきたいのだ。
「それなら適任が一人います。航海の記録係だった男です。そいつをレブ様の教師にいたしましょう」
へー。そんなのがいたのか。オレも教えてもらおうっと。
『わたしはタダの侍女ではありません』もよろしくです。




