111 家族
秋の半ば、ミディアが帰ってきた。どうした?
「……あいつら、嫌い……」
あー。やはり馴染まなかったか……。
ゴゴールは猫系の獣人だ。犬系のミディアとは合わないかな~とは思っていた。
じゃあ、なぜいかせたかと言えば、勉強させるため。獣にも合う合わないはある。それを知っておくものだと思ったからだ。
「いじわるされたか?」
「ううん。誰も話しかけてこなかった」
さすがにSクラスとなったミディアにどうこうする強者はいないか。遠巻きにしていたんだろうよ。
「レブとチェルシーのときはどうだった?」
狩りをしているところにミディアがやってきたのだ。
「やたらと話てきて、頭を下げてばっかりだった」
レブも自分がどう扱われ、周りヤツらの考えはわかっている。それでも波風立てないようにやれてるのはオレやギギがいたから。一人じゃないと知っているからだ。
「オレらは獣だ。人とともに歩めても人の中で一緒に暮らせることはできない」
今はまだいい。だが、暮らしが安定していき、社会体制が整っていけば邪魔になる存在となるだろう。オレらを排除しようとする者も必ず出てくるだろうよ。
「すべてを捨てて、森の奥で獣として生きるほどオレらの心は獣ではなくなった。人とともに歩む獣になっしまったんだ。ならは、人とともに歩むよう動かなくちゃならない。自分たちの居場所を作らなければならない。爪や牙が鋭くとも孤独には勝てないのだからな」
孤独の辛さや怖さはレブもミディアも知っている。今さら森の奥へといけと言われてもできないだろうよ。
「ミディア。レブ。チェルシー。オレらは種は違うが家族だ。家族は力を合わせて生きるものだ。オレにできないことはお前たちがやる。お前たちができないことはオレがやる。一緒に生きていくためにな」
ギギとの暮らしも幸せだった。だが、こうして家族と生きるのも幸せと感じてしまった。
「レオ。わたしは家族?」
「ああ、オレの大切な家族だ」
「レオ様、わたしも?」
「ガウ?」
「もちろん、オレの大切な家族だよ」
片方の謎触手でレブの頭を撫でてやり、もう片方でチェルシーのアゴの下を撫でてやった。
「どうやらオレがゴゴールのところにいくしかないな。レブとチェルシーはミナレアを頼む。ミディアは農業村にいってベイガー族と交流してくるんだ」
従順なベイガー族ならミディアと仲良くやれるだろう。そろそろあそこもいかないと思ってたから、ミディアがいってくれると助かる。
「人を学べ。自分の居場所を作れ。だが、誇りは失うな。オレらは守護聖獣で獣神の巫女なんだからな」
「うん! 任せて!」
「ガウ!」
「わかった。やる」
頼もしいヤツらだと、謎触手で撫でまくってやった。
レブとチェルシーに農業村へといってもらい、ベイガー族とミディアを繋いでもらう。
用意が整い次第、オレはギギと巫女、守人を連れてブランボルの町へと出発した。
「守人たちの訓練はどうだ?」
いつの間にかついてきたヤトアに尋ねた。
一応、ヤトアも獣神教の守人としての立ち位置になっている。
「順調だな。まあ、人間の守人はいまいちだがな」
まあ、身体能力的に仕方がないか。
「子が産まれたのについてこなくてもいいだろうに。帰ってやれよ」
マイノカから産まれたと知らせが届いたと聞いたのだ。
「まあ、父親として誇れるよう立場を築かないといけないと思ってな」
「そう考えるようになるとか、大人になったな」
最強の剣士とか言ってた男が守りに入るとはな。年を重ねるとは偉大なものだ。
「からかわないでくれ」
「あはは。褒めてるんだよ。人はそうやって生きていくものなんだからな」
まあ、老害も起こってしまうが、人間としてはまっとうな生き方だろうよ。
「そうだ。子に名前をつけてくれ。妻たちもそれを望んでいる」
「お前らの子なんだからお前らで決めろよ」
「師匠の祝福をいただきたい」
祝福ね。まあ、オレが名をつけたと言う名誉が欲しいのだろう。今後の立場を考えるならな。
「わかった。帰ったらつけてやる。オウノミトの姓は受け継がせるのか?」
「ああ。おれも受け継いでくれる者が欲しいからな」
本当に守りに入ったようだ。
「じゃあ、オウノミトに似合う名を考えないとな」
ヤトアの嫁は五人だが、子を産んだのは四人。一人はまだ十六歳だそうだ。
……なんの主人公だよ……。
「感謝する」
「構わんよ。嫁ばかりに育児をさせるなよ。ちゃんと抱いてやり、愛してやれよ。お前の子なんだから」
「わかっている。泣かすようなことはしない」
男同士顔であり、父親の顔を見せるヤトア。なんだか息子が成長した気分だぜ。
謎触手でヤトアの頭を小突いてやる。一人前になりやがってな。
「子にも剣を教えるのか?」
「オウノミトの子だからな。剣を使えないようでは困る」
「お前の子だ、お前が好きにしたらいいが、ちゃんと子の才能を見極めろよ」
勇者の子が勇者になるとは限らない。親の才能が子に受け継がれるとは限らないのだからな。
「誰かがオレの剣を継いでくれたらそれでいいさ。まあ、それなりには教え込むがな」
ふふ。親になるのは大変だ。なんて思いながら羨ましくも思った。
……どこかに人になれる呪霊はないものかね……。




