10 戦艦来襲
夏がく~れば塩作り~。遥かな壁ぇー、青い空ァ~♪
なんて歌いたくなるくらい清々しい夏の空である。
葉野菜を植えてから塩の消費が激しく、他のゼルム族がちらほらとやってきて物々交換をしている。足りなくなる前に塩を作りにきたのだが、心地よい天候に清々しい風が気持ちよすぎて岩の上でだらけていた。
「レオガルド様のお腹、モフモフです」
オレの腹の上で寝ているギギも気持ちよさそうだ。
こんなスキンシップをするのも久しぶりなので、塩作りはゼルム族に任せ、海風が気持ちいい木陰でギギと甘い時間を過ごしている。
だが、そんな甘々な時間も轟音に打ち破られてしまった。
「大砲!?」
に似た音だった。
「ギギ。オレの背に乗れ!」
どこよりもオレの背が安全な場所。背中の長い毛でギギの体を固定する。つーか、この長い毛、なんのためにあるんだろうな?
じゃなくて! なにが起こったんだ?!
崖に立つと、海上に大砲がたくさん載せられた船──戦艦が三隻もいた。
「レオガルド様!」
どうやら塩作りをしたゼルム族が狙われたようだ。
「まったく、野蛮なヤツらだ」
世界が違えど人間って生き物は野蛮にできている。違う種や他人種を受け入れられないんだからよ。
「森の中に入れ!」
戦艦まで三百メートルは離れている。弓矢で反撃などできようもない。と言うか、こんな近づかれるまで気がつかないとかゼルム族はなにやってんだよ?
「ギギ。怖いか?」
「怖くはありません」
うん。その信頼が嬉しいよ。
大砲がこちらを向いて砲弾が飛んでくる。が、オレは風を操れる獣。カノン砲なんぞに負けやしないよ。
この大陸で鉄は貴重。鉄の砲弾をくれると言うならありがたくいただきましょう。
風を操り、何十と飛んでくる砲弾を絡め取って丁重に横に置いた。
「大漁大漁」
大きさからして二十キロはありそうだ。それが十数個。これを溶かせる炉は造れるだろうか?
なんて考えてたらまた砲弾が飛んできた。気前がいいこと。
効果なしと判断したのか、三隻から砲弾を放った。
だが、それはオレを喜ばせるだけ。どんどん撃ってこいや!
とは言え、船に積める量には限界がある。無限に撃てるわけもなし。ましてや、何十日もかけて航海するのだから砲弾の量はそんなに積めないはずだ。
戦艦なら人も連れているはず。砲弾五百発も積めれば御の字だろうよ。
百数発も撃つと打ち止め。全弾撃つわけもないから三割で止めたのだろう。
「状況を読めて、決断ができるヤツが指揮してるみたいだな」
まあ、艦隊を率いるくらいだからバカではなかろうよ。
畳んでいた帆を広げ、船を進めた。
「逃げるか?」
と思ったら、大きく旋回して左舷側から右舷側をこちらに向けた。
船の構造などよく知らんが、船のバランスを保つために左右の大砲を撃たないとダメなのかな?
効果がないと言うのに同じくらい撃ってきた。
「さすがに村まで持って帰るのも一苦労だな」
これ、何往復したらいいんだ?
「さて。暴力的な野蛮人には暴力で返すのが礼儀ってもんだよな」
こちらの生命財産を奪おうとする者に優しくしてやる法は大森林にはない。己の命は己で守れ。強い者が法である。
「ギギ。血を見るが、いいな?」
「はい。レオガルド様を攻撃した者の血なら喜んで見ます」
某少年にギギを解き放て! とか言われちゃいそうだな。まあ、そんなアホ、言った瞬間に噛み殺してやるがな。
「それでこそオレの愛し子だ」
風を生み出し、崖からジャンプする。
「風走術!」
風で体を持ち上げながら風を踏んで空を走る術である。
まあ、まだ完成形ではないが、三百メートルくらいなら余裕である。あっと言う間に走り抜け、一隻の船の上に立った。
船にいる連中は軍服らしきものを着ており、フリントロック式の銃を持っていた。
……まさに世は大航海時代、な感じだな……。
「人間ども。力でこの地に足を踏みいるならこちらも力で排除する」
雷を放ち、兵士たちを感電死させた。
血を見ると言いはしたが、船にあるものはいただきたい。汚さないよう心がけます。
中から出てくる兵士どもを次々と感電死させ、粗方片付いたら次に、と思ったら二隻はさっさと逃げ出していた。
「決断するのが早い」
なにか失敗した感はあるが、今は船──お宝を手に入れたことを喜ぼう。
この体で船を操ることはできないが、風は操れるのでなんとか岸壁へと運んだ。
ゼルム族に手伝ってもらい、ロープで岩に固定させる。
「まだ中に人がいるかもしれんから注意しろ。武器を持っているぞ」
ゼルム族の体格で船の中に入るのは大変だろうが、オレでは入れないし、ギギを入らせるわけにもいかない。ここはゼルム族に頑張っていただこう。
「レオガルド様! いました!」
抵抗することなく生き残りが出てきた。
兵士が十三人。身なりの汚い者が二十八人。高級士官っぽいのが五人。あと、なぜか女が三人もいた。
……ケバい身なりからして娼婦かな……?
「お前らに選択させてやる。従うか死ぬか、好きなほうを選べ」
「獣がふざける──ぎゃあっ!」
最後まで言わさず高級士官っぽい男を黒焦げにしてやった。
「次は誰が死にたい?」
人間たちを睨みつけた。
「し、従います!」
真っ先に動いたのは身なりの汚い男たちだった。
「よかろう。今からお前たちはギギの配下だ。もし、逆らうようなら黒焦げにしてやる。心に刻んでおけ」
「は、はい。わかりました。従います」
状況を理解できるヤツらでなによりだ。逆らわない限り、お前たちの生存権は認めてやるよ。
「他は?」
「従います! 殺さないでください!」
次は女たちだ。損得勘定ができてなによりだ。
「素直に従うなら飢えさせはしない」
こいつらになにができるかわからんが、大人の女がいるのならギギにとって助けになる。オレじゃなんの助けにもなってやれないからな。
「で、お前たちはどうする? 軍人として死ぬか? それとも人として生きるか? ちなみにここから開拓の町まで丸二日はかかる。武器なしでは半日として生きられないだろうな」
オレの気配を察して逃げ出しているが、人間より強い獣はたくさん彷徨いている。人間などあっと言う間に美味しく食べられるだろうよ。
「……し、従います……」
一般兵士たちの圧力に負けてか、高級士官っぽい男の一人が答えた。
「無理に、とは言わんぞ。仲間に知れたら裏切り者扱いされるんだからな」
仲間を見捨てて逃げるのだからそのくらいはするだろうよ。人権とかなさそうな時代っぽいし。
「いえ。従わせてください」
「そうか。まあ、逃げたければいつでも逃げたらいい。運がよければ開拓の町へ辿り着けるだろう。運がよければ、な」
調査隊のヤツらもレオノール村まで辿り着くまで半分は死んだと言う。つまり、フィフティフィフティってこと。運を信じてやってみればいいさ。
「船に積んでいる物をすべて降ろせ」
最初の命令を下した。




