65話
一面、黄金色に実った小麦畑を眺めながら、私たちは畑道を進み、最初の村アーミ村へと向かっていた。
先頭を行くのは軍馬に跨るローサン殿下、その後ろに騎士団長ミハエルと副団長リチャード。さらにその後ろで私は兄の背に乗り、初夏の風を感じている。
〈もうすぐ夏かぁ。四つの季節がある森の中にいると、外の季節を忘れちゃうね〉
〈そうだな。少し暑い〉
〈じゃあ、周りが涼しくなる魔法をかける?〉
〈頼んでいいか?〉
私はこくっと頷き、手に持っている杖を軽く振り「涼しくなぁれ」と呟いた。自分と兄を包む空気の温度が、一、二度ほど下がる。
〈ふぅ、涼しい。ありがとう〉
〈どういたしまして〉
それに気づいたのか、ホウキで並走していた、魔法使いアルバートが近寄ってきた。
「ねぇシャーリー。いま、何か魔法を使った?」
「うん。少し暑かったから、涼しくなる魔法を使ったわ」
「涼しくなる魔法? そんな魔法があるのか? 初めて聞いたよ」
「この魔法は魔女だけが使える、創作豊かな魔女魔法だからね。……でも、あなただって属性が違う二つの魔法陣を重ねて、魔法式を調整すれば、使えると思うけど?」
淡々と答える私に、魔法使いアルバートは苦笑する。
「二つの違う属性? 魔法陣を重ねる? はは。二つをいっぺんになんて、僕にそんな器用なことができるかな。魔女の魔法は本当に変わっていて、面白いね」
「そうでしょう? いろんな書物、魔導書から学んで、何度も失敗しながら実験するの。だから魔女の魔法には、他では見ないものが多い」
――あなたには、とうてい真似できない。
もしできたとしても、私はそこからさらに実験を重ね、魔法陣を変え、別の魔法へと変化させる。そうやって、独自の魔法を増やしていく。知らない魔法を知れば知るほど、私の魔法は豊かになる。
「やはり、魔女という存在はなかなか興味深い。今度、王都の喫茶店でお茶でも飲みながら、ゆっくり魔法の話をしたいな」
アルバートの目の色が、わずかに変わった。
〈おい! シャーリー、そいつに興味を持つな〉
〈あ、ごめん。魔法の話だったから、つい夢中になっちゃって〉
〈はぁ……そんな事をしていると。あいつに、ますます気に入られるぞ〉
〈ううっ。無意識で話してた……私に、魔女に、興味を持たれるのは困る〉
〈だったら、気をつけろ〉
〈うん〉
ほんとだめだ。魔法の話が好きすぎて、彼が“あの日の魔法使い”だという認識が薄れてしまう。
「忙しいから、お茶はごめんなさい」
「そっか、また時間があったらよろしくね」
⭐︎
しばらく小麦畑の道を進むと、周囲を木の塀に囲まれた村が見えてきた。だが、魔物に襲われたのだろう、家屋は壊れ、地面は抉られている。
先頭を行くローサン殿下と、その後ろの騎士団長、副団長は村の手前で馬を止めた。先頭の殿下は馬を反転させ、声を張り上げる。
「初めの村に到着した。あの村がアーミ村だ! 支援物資を乗せた荷馬車は村の中へ、魔女は僕についてきてくれ!」
「」了解しました」
「はい!」
――ついに、作戦が始まる。




