64話
殿下の天幕前に設置されたテーブルを挟み、作戦会議が始まった。ローサン殿下は地図の上に指を置き、順に示していく。
「みんな聞いてくれ! 初めにアーミ村、次にカロン村、最後にヤスラ村を回ろうと思う」
ここから最も近いアーミ村へ向かい、私が村の周囲に魔法で壁を築く。その後、カロン村、ヤスラ村にも同様に防壁を設置する。
村の周囲を頑丈な壁で囲ってしまえば、魔物が容易に侵入することはできない。次に行うのは、魔物のボス個体の討伐だ。私と兄が討伐を行っている間、他の者たちは村人の護衛、被害状況の確認、そして支援物資の配布を担当する。
(支援物資は殿下が用意しているはず)
ボス個体を討伐した後は、残った魔物を駆除玉で迷いの森の奥へ追い込む。それが終わったら卵を探し出し、ドラゴンの夫婦に返せば、すべてが終わるはず。
そのとき、空から異様な魔力を感じ、思わず顔を上げた。隣にいた兄も、同じ気配を察したのか、同時に空を見上げている。
〈シャーリー、ドラゴンの夫婦が空にいる〉
〈ええ……とてつもない魔力を感じるわ。あのドラゴン夫婦に反応した、強力な魔物が現れたりしない?〉
〈……あり得るな〉
そうなれば、厄介どころの話ではない。
だが、彼らが大切な卵を探したい気持ちもわかる。
さらに厄介なことに、魔法使いアルバートもまた何かを感じ取ったのか、空を見上げている。そして殿下も高い魔力らしく、ドラゴンの存在を感じたのか空を見上げた。
「ローサン殿下に報告します。空に、何かいます」
「ああ、いるな。だが、こちらに干渉してこない限り、今は無視する。まずは三つの村と、村人を守るのが先だ」
「了解です。シャーリーも、そうしてね」
馴れ馴れしく名前を呼ぶアルバートに、私は小さくため息を吐き、頷いた。昨夜見たドラゴン二体の圧倒的な存在感、あれに下手に手を出せば、私と兄だけでなくこの国そのものが消える。
〈すげぇな……〉
〈えぇ、空から伝わる圧が凄いわね。先に卵を見つけて、返してあげたいくらい〉
〈だな。さっさと壁を作って、魔物を片付けよう〉
⭐︎
アーミ村へ向かう準備として、ローサン殿下は手の空いている、騎士と魔法使いたちを呼び寄せた。
「いまから、街の入り口付近にある貸し屋へ行き、荷馬車を三台、軍馬を三頭借りてきてくれ」
支援物資の運搬のため、騎士たちはルルーカの街で荷馬車三台と、移動用の軍馬三頭を借りてきた。
荷馬車一台につき、村一つ分の支援物資を積み込む。そして軍馬には殿下、騎士団長、副団長が騎乗し、残りの騎士や魔法使いたちは荷馬車に分乗した。
魔法使いアルバートはというと、ホウキを取り出し、軽やかにまたがる。魔女以外で、魔力調整の難しい、ホウキを扱える魔法使いは珍しい。
「シャーリーも、ホウキに乗るの?」
「いいえ。私は使い魔に乗るわ」
〈兄、体を軽くする魔法をかけたから、重くないと思う〉
〈まったく……そこまで気を遣わなくていいのに〉
私は魔獣姿の兄の背に、横乗りで身を預けた。




