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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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62話

 朝食を終え、私はいつもの服装に肩掛けのポシェットをかけた。このポシェットはアイテムボックスと直結しており、いちいちボックスを開く必要がない優れものだ。


(滅多に使わないけど、今日は速さが重要)


 さっさと村を守り、魔物を討伐して卵を回収する。そして待っているドラゴン夫婦のもとへ、卵を返す。


「兄、準備は終わった?」

「ああ、いつでも行ける」


 食後、軽く準備運動をした父は、今日は最初から魔獣の姿で行くらしい。私は父と魔王に「行ってきます」と告げ、杖を構えて王城へ転移した。


 降り立ったのは、いつもの庭園。

 そこには魔法使いアルバートの姿があった。


 私たちが来ることは知っているが、正確な到着場所までは分からない。息が切れているところを見ると、いま生じた魔力反応を感じ取り、急いで駆けつけたなかな。


 魔法使いアルバートは昨日の黒いローブ姿とは違い、今日は杖を手に、肩掛けのマント。白いベストに黒いシャツとパンツという、やけに目立つ装いだった。


「おはよう、魔女シャーリー。今日はよろしくね」


 そう言って、彼は当然のように手を差し出す。


「おはようございます」


 挨拶を返し、手を伸ばそうとした、その瞬間。

 兄が一歩前に出て、鼻先でアルバートの手を弾いた。


「イテッ、あなたは魔女の使い魔? 僕はただ、魔女にハグの挨拶をしたいだけなんですが」


「ガルルルルッ」


 低く唸る兄。

 どうやら、私に魔法使いアルバートを近づけたくないらしい。それは私もだと、胸に手を当て、アルバートに頭を下げた。


「……集合場所へ案内してください」

「わかりました。行きましょう」


「お願いします。――そうだ、兄」


 ポシェットに手を入れ、青い魔石のついた首飾りと、同じ魔石の腕輪を取り出す。これは兄と魔力を同調させる魔導具。


 同時に、“魔女の使い魔”であることを示す証でもあった。首飾りを兄の首にかけ、腕輪を自分の手首にはめる。途端に、兄との繋がりがはっきりと感じ取れた。


 ガウッ。


〈ぜってぇ、あいつ……シャーリーに何かしてくる〉

〈ありがとう。あの人、私にハグしたいって……〉

〈あなどれん〉


 前を歩くアルバートを、二人で警戒しながら進む。


「魔女シャーリー、着きましたよ」


 庭園の入り口には、軍服を着たローサン殿下。騎士団長と副団長、騎士たち、そしてローブ姿の魔法使いたちが揃っていた。


「殿下、連れてきました」

「ありがとう。おはよう、魔女」

「おはようございます、ローサン殿下」

「ガウッ」


 胸に手を当てて頭を下げる。

 殿下は、私と兄の首飾りと腕輪に視線を留めた。


「その装備は……?」

「人里へ向かうので。兄が“魔女の使い魔”だと分かるようにしています」


「そうか……村人は、やはり怖がるか」


 私は小さく頷いた。


「魔女に対しても、警戒するかもしれません」

「なら……」

「シャーリー、安心して。何かあれば僕が村の人達に説明するよ」


 殿下の言葉を遮るように、アルバートが前に出てきて、私の肩に手を置いた。


 ――ぞわり。


 背筋に寒気が走り、思わず一歩下がる。


「どうして離れるの?」

「いい加減にしろ、アルバート。今は僕が魔女と話している。持ち場に戻れ」


 殿下が魔法使いたちの方を指すが。


「ええ? 魔法が使える同士、仲良くしないと」

「それなら、僕も使えるが?」


〈なんだか言い合ってるんだけど、兄、どうしたらいい?〉

〈放っておけ〉

〈わかった。あの、今日は兄の背中に乗っていいの?〉


〈あぁ魔力も同調している。その方が移動も早い〉


〈じゃ、よろしく〉


 兄の額に、自分の額を軽く当てる。これは「あなたに任せる」という意味合い。母がいつも父にもしていた。


 このあとは……兄はしないだろうと、離れようとした瞬間、兄の鼻が私の鼻に触れ、頬へと擦り寄せられる。


〈何があろうとも、守る〉

〈私だって、守る〉


「ずるい、僕も!」

「ガウッ、ガウッ!!」


 空気を読まないアルバートに困る。恥ずかしさと、嬉しさに笑みがこぼれて、頬が熱い。私はそれを隠すように、丸メガネの上に目元を覆う銀色の仮面を装着した。


 恥ずかしさを隠すのもあるけど、もう一つ面倒ごとを避けるためでもある。


「魔女、そろそろ出発しようか」


 殿下の声に頷き、杖を構える。

 兄が隣に来たのを感じ、魔法陣をいつもより大きく展開した。


「準備完了です。ローサン殿下、騎士団の皆さん、魔法使いの皆さん。魔法陣の中へ入ってください。北の大地、ルルーカの街に転移します」


 今回の転移は大人数。

 兄と協力する、特別な転移魔法だった。

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