61話
あれから、嫌な夢を見ることもなく眠れた。
目を覚ますと、先に起きたのだろう兄の姿はなく、代わりに春を封じ込めた大地に咲く、白いアイリスの花が一輪、枕元に置かれていた。
花言葉は「あなたを大切にします」……まさか、兄がそんなことを考えて? ただ散歩に出て、可愛いと思って摘んできたのかも。
でも。
「おくりものは嬉しいな。魔法で、押し花にしようかな」
そう呟きつつ、いまは一輪挿しの花瓶を用意し、魔法で水を満たして飾った。しばらく花を眺めてから、顔を洗い、朝食の支度をするためキッチンへ向かう。
今日の朝食は残っている食パン、丸パン、クロワッサンをすべてオーブンで焼いて。卵は目玉焼きとスクランブルエッグに。ハーブ入り、粗挽き、くるくると巻かれたソーセージは、こんがりきつね色になるまで焼こう。
キッチンから調理の音が聞こえたのか、兄が入ってきた。
「シャーリー、おはよう。よく眠れたか?」
「う、うん。ありがとう。よく眠れたよ」
それはよかったと言って兄は隣に立つ、今日も手伝ってくれるらしい。ソーセージを兄に任せ、私は目玉焼きとスクランブルエッグを仕上げて大皿に盛り、トマトソースをかけた。
飲み物は紅茶にミルクを入れたミルクティー。
せっせと動く私の横で、兄は焼き上がったソーセージを皿に移しながら言った。
「あまり緊張するな。魔物はすべて、俺に任せればいい」
昨夜の出来事と、私の心の内を見透かされたようだった。兄に任せられるのは心強い。でも、怪我をする姿はやっぱり見たくない。
「任せるところは任せるけど、私もしっかりやるわ。それに、なんとしてもドラゴンの卵を見つけないと」
「卵か。ああ、必ず見つけよう。これ、テーブルに運べばいいか?」
「ええ、お願い」
私は焼き上がったパンと卵料理を持って外のテーブルへ行き、待っていた父の前に並べる。その横に大量のバター、イチゴ、ラズベリー、オレンジで作ったジャム、はちみつ、溶かしたチーズを置いた。
父の前には、あらかじめ具材を挟んだパンの山を置く。
「いただきます」
そう言って、朝食が始まる。
「まずは、たっぷりバターを塗って、はちみつをたっぷり垂らすの! これが美味しい」
「それ美味いよな。俺は丸パンにスクランブルエッグと、とろけたチーズ!」
兄と私は、好きな食べ方で食べ始める。
そこへ魔王が起きてきて、テーブルを見渡し「すごいな」と感心したように言い、空いている椅子に腰を下ろした。
「おはようございます。好きなように食べてください」
「ああ、いただきます。魔女シャーリー、今日は頼んだぞ」
「はい、任せてください!」
元気よく答えた後、私ははちみつたっぷりのパンに、がぶりとかみついた。




