5話
仲の良い父と母が羨ましい。けど、もらえなかった愛情を二人にはたくさんもらった。それは私の食事もそう……魔女になっても、人から魔女になった私はレタスだけでは栄養不足。
薬草しかないこの森の土地に、多くの野菜を植えてくれた。父がお肉をわけてくれる。捨てられた私にとって、二人はなくてはならない存在。ヴォルフ兄もだけど……彼は少し違うかな。
ぶる、ぶるっ。森の見回りのはじめ、北の森に着いたすぐ、アイテムボックスから厚着を出して着込んで魔法をかけたけど、冬の森は足元から冷えてくる。
「温かいものが食べたい」
そうだ。お昼はパンを焼いて、魔冷庫にあるシロロ鶏肉と、畑で採った白菜でクリーム煮を作ろう。それぞれの季節の森に、母からもらった自分の畑で、その森の気候に適した野菜を育てている。
「冬の森の、森の魔法陣はどうかな?」
私は杖を取り出して冬の森を歩き「魔法陣の場所は、この辺りかな?」と「冬の森の魔法陣、展開」と杖に魔力を込めて地を軽く二度叩く。母から譲り受けた森護りの証が光り、足元に薄青い光が雪の上にあらわれる。
これは初代、森護りをしていた魔女リィーネが、北の森を包む冬を封じ込めた白の魔法陣。そして、冬の森の奥にある祠を護る紫色の封印の魔法陣。それらに綻びがないか、魔力を通して確認した。
しばらく魔力を流して、フウッと息を吐く。
「確認おわり。よかった、森の魔法陣と祠の封印の魔法陣の綻びはないわね」
次の森へ移る前に、畑に寄り白菜を収穫し、ホウキに取り出してまたがり次の森へと向かった。
「次は秋の森! 梨を持って帰ろう」
⭐︎
「父、ただいま」
「おかえり、順調に終わったようだな」
「うん。どの魔法陣にも綻びはなかったよ。それと冬の森の祠もね」
「ご苦労さま。ゆっくりやすみなさい」
「そうする。……あ、そうだ。父にお土産を待ってきたよ」
とアイテムボックスを開く。このボックスの中には各森で採れた野菜や果物が、ぎっしりと詰まっていた。
「シャーリー、またたくさん持って帰ってきたな」
「でしょう。でも父、森をまわるとたくさんの魔力を使うからか、お腹がすくんだよ」
それもあると思うが「シャーリーがただ食いしん坊だけなのだ」と、飽きられた顔をされた。
⭐︎
母から任された、王家の薬師。かつて多くの国々では、魔女は異端とされ、迫害の対象であった。
しかしらここスカロード王国だけは違った。
スカロード国だけは、魔女を「天よりの賜りもの」と称え庇護した。
なぜ、スカロードの国王は魔女を庇ったのか。それは大昔、この大陸に“魔王”が存在していた。
魔王は数多の国を蹂躙し、世界を闇に沈めようとした。その危機が、スカロード王国にも迫ったとき、ただ一人の魔女が国を救ったのだ。
偉大な力を持つ彼女は勇者の仲間として選ばれ、魔王討伐の旅に出る。勇者パーティと共に戦い、ついに魔王を打ち倒して世界は平和になる。
魔王討伐が終わり、魔女は故郷スカロードへと戻る。
魔女が国へ帰ってきたと報告を受けた国王は、彼女功績を讃え多くの褒美を授けようとしたが、魔女は静かに言った。
「王よ、願いは一つ。私にスカロード国の北の地をください。」
魔女の願い。国王はその願いを受け入れ、魔女リィーネに国の北にある北の森を与えた。
森をもらった魔女はその地に居を構え、多くの薬草を育てはじめる。そして彼女は森で育てた薬草を薬にして、病気の人々に薬を分け与えた。
国王は彼女の行動に感激して、“国の薬師”と呼び、その称号を授けた。やがて時が流れ、王家は優れた力をもつ魔女を独占するように「王家の薬師」と呼び名がかわる。
けれど、呼び名が変わっても、魔女リィーネは何も言わなかった。
彼女には秘密があった。魔王を討つ旅で魔女リィーネは“あるもの”を持ち帰っていた。その秘密を知るのは、森を護る魔女だけ。その秘密は百年の時を過ぎても、守られている。
その秘密を守る対価として、魔女は資源が豊富な森を持てるからか、誰一人として秘密を漏らす者はいなかった。
母から森を任された私も、その秘密を守っている。
この話を母から聞いたとき、魔女リィーネの力と森の豊かさにも驚いたけど。それ以上に魔女リィーネの気持ちがわかった。
いくら力のある魔女でも、ひとりの女性なのだと。




