57話
魔法使いアルバートの姿が見えなくなり、私はようやく、ほっと息をついた。あの花の通り、いつかは再会すると思っていたけれど、まさかこんなにも早いとは思わなかった。
〈明日の用意しないとな。シャーリー、俺たちも帰るか?〉
〈ええ、帰りましょう〉
明日は間違いなく大変になる。
早く帰って、魔力回復の薬や食べ物を準備しなければならないし、今は少しでも魔力を温存しておきたい。
兄と森へ帰ろうとテーブルを立った、そのとき。まだ戻っていなかったローサン殿下が、こちらに声をかけてきた。
「魔女、すまない。僕たちは経験不足で、君に迷惑をかけてしまった」
「殿下、大丈夫ですよ。私がやったほうが、早く終わると思いますし……これ以上、怪我人も出さずに済むと思います」
「そうだ。シャーリーと俺がいる」
ここでする、必要な話はすべて終わった。
書庫を出て兄と帰ろうと、杖を取り出した瞬間――。
禁魔導書の並ぶ奥から、本の妖精が現れ、ふわりと私の周りを飛び回った。
【もう帰ってしまうの?】
【はい。明日は大変になりそうなので……あなたへのご挨拶は、また今度にします】
【そのほうが、ゆっくり話せそうね。あなた、最近とても忙しそうだもの】
【ええ……。私も、暇になれる日を楽しみにしています。またお会いしましょう】
本の妖精は満足そうにくるりと宙を舞い、再び禁魔導書の中へと戻っていった。
私はローサン殿下に向き直り、胸に手を当てて頭を下げる。殿下も忙しいのだろう、軽く頷き、そのまま書庫を出ようとしたが、ふと立ち止まりこちらを振り返った。
「そうだ、言い忘れるところだった。兄上とローラ嬢は少しずつ元気になってきた。今は二人で、執務の勉強をしているよ。……魔女、ほんとうにありがとう」
そう言って殿下は笑った。それは、いつもの大人びた微笑みとは違い、どこか年相応で柔らかな笑顔だった。そうだ、彼は私よりも二つ年下だった。
「いいえ。第一王子殿下、ローラ様がお元気になられて何よりです」
「うん。じゃあ明日はよろしく頼むよ」
「はい、お任せください。……あ、この地図を魔法で複製して、持ち帰ってもよろしいですか?」
「好きにして、構わない」
そう答えると、ローサン殿下はそのまま書庫を後にした。私は杖を振り、地図に複製魔法をかける。ぽんと現れたもう一枚を丁寧に丸め、アイテムボックスへとしまった。
兄は一瞬こちらに視線を向けたが、すぐに口を閉ざした。ここで声を出して話せば、誰かに聞かれ殿下へ伝わりかねないし。魔力を使う語り合いも、明日のために取っておくべきだと判断したのか。
「帰るぞ」
短くそう言って、兄は私の背中を軽く押した。
⭐︎
転移魔法で森へ戻ると、私たちはすぐに父と魔王、そしてドラゴンの夫婦に明日の予定を伝えた。
父はしばらく考え込んだあと、
「……それが一番だな」
そう言って、私の案を認めてくれた。
魔王とドラゴンの夫婦も同様に頷き、「君たちに任せる」と言った。




