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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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56話

 それに待ったをかけたのは、魔法使いアルバートだった。彼は困ったように眉を寄せ、反論する。


「殿下、僕たち魔法使いは大型魔物の討伐経験がありません」


 すぐに騎士団長も続いた。


「それを言うなら、我々騎士団も同じです」

「中型までなら経験はありますが……大型となると、正直初めてですね」


 そうかも。


 大昔に魔王は封印され、いまや魔女の駆使玉も存在する。冒険者でもなければ、大型魔物を目にする機会などほとんどないはずだ。


 ローサン殿下に至っては、魔物そのものを見たことがない可能性すらある。


(どうするかなんて、悠長に議論している場合じゃない。森にいるドラゴン夫婦が痺れを切らしたら、村々はひとたまりもない)


 私は静かに手を上げた。


「魔女、何か案があるのか?」


「はい。私が三つの村すべてに障壁、頑丈な防壁を張ります。そうすれば、魔物が村へ侵入することはまずありません」


 一呼吸置いて、話を続ける。


「その後、兄と私で魔物のボスを討伐します。そして、残った魔物は駆使玉を使って、森の奥へ奥へと追い払う。……いかがでしょうか?」


 ほとんど「私がやります」と言っているような提案だった。その案の内容に殿下は眉をひそめ、兄は明らかに不機嫌そうに睨んでくる。


〈また無茶をするつもりか?〉


〈ええ、無茶でもやるしかないわ。ドラゴン夫婦が痺れを切らして暴れ出したら、それこそ終わりよ〉


〈……それは否定できないな〉


 と、兄と頷く。

 いきなり静かな書庫で魔法使いは拍手し、笑みを浮かべた。


「なんと面白い! なかなかにいい案ですね。せっかくですし、僕は目の前で魔女の戦いを見てみたい。ぜひ同行させてください」


「だめだ。僕も魔女の魔法を見たい!」

「我々も見たいです」

「ぜひ見たい」


 うわっ、面倒かも。


 ⭐︎


 殿下の話で、王都から北の土地へ向かうには、馬車で五日もかかるという。そんなにかかってはドラゴン夫婦が痺れを切らす、そう判断した私は再び手を挙げた。


「あの、私の転移魔法で、村の近くにあるルルーカの街まで送ります。ただし人数はせいぜい十二名までです。これ以上は無理です」


「わかった」


 ローサン殿下は頷き。


「ここにいる四名、魔女とその使い魔。それに加えて騎士三名、魔法使い三名を選出しよう」


「はい。それでお願いします」


 書庫での話し合いは終わった。

 騎士団の二人は明日の準備のために席を立ち、残ったアルバートはいつものように柔らかな笑みを浮かべながら、私の前へと歩み寄る。


「シャーリーさん、明日はよろしくお願いしますね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 差し出された手を握った、その瞬間、ぐっと強く掴まれ、体を引き寄せられそうになるが。兄が私の肩を持ち、引き寄せた。


「お前、シャーリーに触るな」


「……残念ですね。また、あなたに花を贈りますね」


「結構です」

「贈ってくるな!」


 兄の低い声が重なる。


「おお、怖い怖い。では明日、またお会いしましょう」


 アルバートは楽しげに手を振り、そのまま踵を返して去っていった。きっと彼は気づいている。自分が、あの日の魔法使いだと、私に知られていることを。


 もう隠すつもりは、ないのだろう。

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