55話
〈そうなのか〉
兄にだけ、こくりと頷く。
でも、なぜここに?
疑問はすぐに浮かんだが、彼が魔法に長けていることは知っている。あの膨大な魔力量、一流の魔法使いだ。王城にいても、何ひとつ不思議ではないのかも。
それにこの場で、あの魔法使いの顔を知っているのは、私だけだ。
できれば会いたくなかった。とっさにあの男の目から隠れようと、兄の影に隠れる。それに男は気づいたようで、にこりと笑った。
「なにをしている? 魔法使いアルバート、早くこっちに来い!」
「はーい。あ、その前に自己紹介します。僕は魔導師長のアルバートと言います。魔女様、よろしくお願いしますね」
――魔導師長?
それはつまり、魔法使い部隊を束ねる指揮、宮廷魔導師の頂点だ。改めて見れば、黒のローブには立派な銀の刺繍が施されている。地位を示す装いだ。
魔法使いアルバートはローサン殿下に呼ばれ、私のすぐ近くに立つとじっとこちらを見下ろした。あの時とは違う、雰囲気に余計な不気味さを感じる。
「あの、魔女さんの名前を聞いてもいいですか?」
周囲の視線など意にも介さず、まっすぐ私に問いかけてくる。彼に名前など答えたくないが、ここで黙るのも変だ。
「……リィーネ森の魔女シャーリーです。よろしくお願いします」
「シャーリーさん、ですか。いい名前ですね」
「アルバート!」
殿下の怒りを含めた声に、アルバートは肩をすぼめて黙った。殿下はふうっと息を吐き、鎧を着た騎士を紹介を始めた。
「魔女から見た右側が騎士団長ミハエル・カッヤードで、左側が副団長リチャード・ロイヤルだ」
「騎士団長ミハエルです、よろしく」
「副団長リチャード、よろしくねぇ」
「はい、ミハエル様、リチャード様、リィーネ森の魔女シャーリーです。こちらは私の使い魔のヴォルフです」
紹介された兄は声を出さず、立ち上がって頭を下げた。各自の自己紹介を終え、これからの話し合いが始まる。
⭐︎
静まり返った書庫に、ローサン殿下の声が響いた。
「みんな、聞いてくれ。これから魔物が出没した村々について説明する」
「はい!」
「よろしくお願いします」
「お願いします」
ローサン殿下は頷くと、広げた地図に視線を落とした。そして、魔物の被害が確認された三つの村の上に、色の異なる色石を一つずつ置いていく。
いずれの色石も、迷いの森に近い村だった。
(森が近いわ。これは、魔王が目を覚ました影響かしら……? それとも、この三つの村のどこかに、ドラゴンの卵があるから……?)
〈シャーリー、魔物が出たのは魔王のせいか?〉
〈それはまだ断定できないわ。……ドラゴンの卵が、関係している可能性もあると思うの〉
〈ありそうだな。ほんと、迷惑な話だぜ〉
〈ほんとにね〉
兄と語り合いしながらも、私は殿下の説明に耳を傾け続けた。
そして、ローサン殿下は三つの村それぞれに騎士団、魔法使い、そして魔女が討伐にあたると案を示した。




