50話
「そのようにしてもいいが……」
息子の卵を探すため、村を一つ滅ぼすと言い出したドラゴンの夫婦。それを許そうとする、黒もこ魔王を私は慌てて止める。
「ま、待ってください。村には多くの人が住んでいます。その人たちを殺すおつもりですか?」
「そいつらは、ドラゴンの卵を盗んだ者たちだ。相応の罰は必要だろう。それに人間などいくらでもいる。一つ村が消えたところで、気にすることではない」
その魔王の考えには、どうしても賛成できなかった。私だって、人間が好きなわけじゃない。けれど、だからといって無関係な命まで、切り捨てていい理由にはならない。
どうにか、もっと穏便な方法で、ドラゴン達の卵を探すことできないのだろうか。村を滅ぼす以外の道はないのかと、必死に考えていたその時だった。
リリーン、リリーン――。
家の中から、鈴の音が響く。
これはローサン殿下が私を呼ぶ鈴。
「あの……村を潰すのは、もう少し待ってください」
ドラゴンの夫婦と魔王にそう告げ、私は通信鏡を身につけた。鏡の向こうに映ったのは見慣れたローサン殿下の姿だが、いつもよりも明らかに疲労と焦りが滲んでいた。
殿下はしばし沈黙したのち、重く口を開く。
「つかぬ事を聞くが。魔女、君は魔物を倒せるか?」
「え、魔物を倒せるか?」
唐突な問いに眉をひそめる。私の困惑が伝わったのだろう、殿下は小さく息を吐いた。
「すまない。初めての事態で、私も冷静さを欠いている」
そう前置きしてから、ローサン殿下は事情を説明し始めた。
「北の大地で、魔物の大量発生が確認された。しかし今、S級からB級までの冒険者の多くが、隣国マールカ、サカラの救援に向かっている。ギルド長からは、この国に残る冒険者はごく少数だと言われた」
「……まさかそれは、他国でも風邪が流行っているからですか?」
殿下は深く頷く。
「そうだ。我が国には魔女がいて、熱冷ましの薬が行き渡っているが、隣国には魔女がいない。その国の薬師たちが調合を進めてはいるものの、どうしても手配が遅れている。その混乱の最中に、モンスターパニックが起きた」
(モンスターパニック……)
魔物が異常発生する現象。
このスカロード国では母や他の魔女たちが魔物の駆除玉を作り、事前に配布しているため、大規模な被害は防がれている。
だが今回は違う。
北の村に現れた大型魔物。その原因が、ドラゴンの新婚旅行か。あるいは黒もこ魔王の復活だとしたら、そんなことを殿下に正直に話せるはずがない。
母は魔女会に出ていて不在。
他の魔女たちも同じ。
父は強いが、この森から離れられない。
魔王やドラゴンは論外。
今、魔物と正面から戦えるほどの魔法を使えるのは、兄と私しかいなかった。
「頼む、報酬は用意する。書庫の鍵も渡そう」
(書庫の鍵かぁ)
でも北の大地の村、そこにはきっとヤスラ村も含まれている。本音を言えば行きたくない。
けれど、怪我人は出したくない。
もちろん、スカロード国の騎士や魔法使いたちも強い。けれど彼らは、魔物専門の冒険者とは役割が違うし。
しばらく考えた末、私は小さく頷いた。
「……わかりました。詳しい状況を教えてください」
そう告げると、殿下の表情がほんのわずかに和らいだ。




