49話
思念体は、ドラゴンの姿ではあまりに巨大だったのか、人型をとった。
生まれて初めて目にするドラゴン。頭にはツノ、背には翼、腰の後ろには大きな尻尾。赤い瞳はどこか爬虫類を思わせる、冷たい光を宿していた。
二人はすぐさま、黒もこ魔王の前に膝をつく。
「バーヤカ、スルル。余の眠りを妨げてまで、何の用だ」
「ガイアート様、申し訳ありません」
「本当に申し訳ありません。――大切な卵を失い、気が動転してしまいました」
「なぜ失った。おまえらの住処は闇世の中、この辺りではないだろう?」
その問いに、ドラゴンたちは言葉を失った。
闇世の中、この大陸のはるか西、昼であっても陽が昇らぬ、暗い湿地の大地。確か、書物で読んだことがある。
(へぇ……母からもらった地図に載っていた場所だ。そこがドラゴンの住処なんだ)
魔物の生息地まで記された、あの地図。
ただの古地図ではなかったらしい。新しい発見があるかも、後でもう一度、じっくり見直さないと。
「我が子にさまざまな世界を見せようと、夫婦で旅をしておりまして。人間には我々の姿は見えませんから……」
「だが卵は別だ。まだ魔力を持たぬ、非力な存在だろう」
「……はい。日光浴をさせようと、森で見つけた花畑に卵を置き、その、二人そろって居眠りしてしまいました」
日の当たらぬ大地から来たドラゴンが、眠ってしまうほどの陽光。それほど心地よいものだったのだろう。
「お願いいたします、魔王ガイアート様。あなた様のお力で、卵を探してください。我々にとって、千年待ち続けた我が子なのです」
涙を流して頭を下げるドラゴンたちに、黒もこ魔王は小さくため息をつき、目を閉じた。
意識を研ぎ澄まし卵を探っている。そんな気配が伝わってくる。
けれど、魔力を持たない卵をどうやって探すのだろう。気づけば私は無意識のまま魔王に近づき、その側に腰を下ろしていた。
「気になるか、シャーリー」
「はい。とても興味深いです。相手は、まだ魔力を持たない卵でしょう? それをどうやって探すのか、気になってしまって」
「はぁ……。好奇心が顔に出すぎだ」
「リシャンに、だんだん似てきたな」
兄と父呆れられても、私は魔王の側を離れなかった。
しばらくして、黒もこ魔王が目を開ける。私がすぐ近くに座っているのを見ると、一瞬驚いたように目を細め、鼻で笑った。
「まったく、魔女というのは面白い。……バーヤカ、スルル。おまえらの子は見つけた。ここから近い村にある」
「ありがとうございます」
「すぐに迎えに参ります」
「待て。そこは人間の住む場所だ。卵は燃えぬ。つまりおまえら、村ごと焼き払うつもりだな」
「そのつもりですが、何か問題でも?」
あまりにも当然のように言い切ったドラゴンに、私は思わず息を呑んだ。




