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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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4話

「シャーロ草、シャーロ草……あ。あれはスモ草、スモ草といえば細く長い葉に小さなピンク色の花が目印で、乾燥させて、魔法水と混ぜれば止血剤になる薬草」


 私は黙々と、ギルドへ納品するシャーロ草を草を摘んでいた。


 ボーン、ボン。

 温室の壁に掛かった時計の鐘が鳴り、ふと手を止める。時刻は十一時。摘み始めてから、もう一時間が経っていることに気付く。


 そろそろ終わるかと手元のカゴを覗くと、シャーロ草とスモ草がこんもり山になっていた。摘んだ薬草を一束、二束とまとめながら、丁寧に数えていく。十束、束ねたのを確認した。


「ギルドへの納品分はこれで十分。余った分は、自分用の虫除けを作って、ついでに摘んだスモ草は止血剤を作ろう」


 胸の前で軽く伸びをして、ひと息つく。

 家に戻り、納品用のカゴを部屋に置く。余ったシャーロ草とスモ草を魔法水でさっと洗い、ザルに並べて風通しの良い場所へと置いた。


 魔法でいっきに乾燥させるより、じっくり自然に任せた方が効き目がいいと母に習った。


「これで、よし。さてと、お昼は何にしようかな?」


 キッチンの魔冷庫を開けると、昨日父が狩ってきたウルウル鳥の肉が残っている。


「この鳥を焼いて甘辛く味付けして、パンに野菜とはさもう……あ、トマトがない」


 魔冷庫にキュウリとレタスはあるが、トマトだけない。南の森に行って採ってこようと、独り言をこぼしつつ外に出る。キョン父は朝も温室から戻ったときも、そして今も、気持ちよさそうに寝そべっていた。


 ――母がいないからか。ずっと寝てるんだから。


「キョン父、南の森の見回りに行ってくるね」


 声をかけると、父は目を開けずに尻尾だけで返事をする。いつも通りの姿に微笑み、父が何も言わないから大丈夫だとホウキを取り出して乗り、魔力を込め軽く地面を蹴ると、体がふわりと浮き上がった。


「さて、行きますか」


 私は野菜をとりに、夏を封じ込めた南の森へと向かった。トマト畑で、真っ赤に染まったトマトを必要な数だけ収穫して、父の元へと帰る。


「いまからお昼作るね」


 甘辛く味付けして焼いた鶏肉に、瑞々しい野菜を重ねてバーガーを作る。昼食を終えると、わずかな休憩もそこそこに、私は街のギルドへ薬草の納品に向かった。

 

 依頼品を渡し終えれば、もう夕暮れ。家に戻った私は、そのまま夕餉の支度をする。夕食後はお風呂を済ませて、今日一日あったこと、見つけた薬草などを日記帳につけて、一日が終わる。

 

 ⭐︎


 温室の手入れ後、私は杖を持ちリィーネ森の森の中央に立つ。これは森を見て回る前の、ウォーニングアップ。


「魔力は安定している。これなら大丈夫。森の見回りに行こう」


 ここ、リィーネの森には四つの四季が魔法で封じられている。北の森には“冬”で年中、雪が舞い続けている。北の森には寒冷地に咲く花や薬草、植物が育つ。西は“春”、東は“秋”、南は“夏”の季節に咲く植物が実っている。


 何故このような森を作ったのか。それは、初代リィーネがいつでも、どんなときでも必要な薬草、花が採れ、薬が作れるようにと四季を封じ込めた。


 だけど、森の中央にある家だけは一年を通して穏やかな気候。母いわく、それが薬調合に最も適した環境なのらしい。


 私はホウキを飛ばし、冬を封じ込めた北の森へとやってきた。


「うわぁ。いつ来てもすごい雪……。ふぅー、さむ、さむっ。厚手のコートとマフラー、それと体を温める魔法っと!」


 素早くコートを着て、首にマフラーを巻いた。


 目の前に広がる白銀の世界、息を吐くと白い靄がふわりと舞う。私が、このリィーネの森に来たばかりの頃は、本当に不思議で仕方なかった。


 母に聞いても、詳しいことは分からず。そういうものだと理解した。だけど、季節を操る魔法陣の加減が難しく、冬の調整を何度も失敗したのもいい思い出。


「うーん。母の頃とは違って今日もお迎えなし、か」


 母がいた頃は森の精霊、森の動物達が寄ってきたけど、シーンと静まり返った雪景色を見渡した。まあ、その動物たちは父キョンの餌なのだけど。


 魔女の食事。母はレタスしか食べないが、使い魔で、フェンリルの父には食事が必要。そして、魔女の母と使い魔契約を結んでいるから、母がいないと森の外にはでられない。


 使い魔は、魔女と契約によって縛られている。


 力の強い父が、母の使い魔をしているのかはわからない。拾われたとき、すでに父は母の使い魔だった。それに二人は仲が良いから。


 父とお昼寝する、母を見ていたから。

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