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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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41話

 夕暮れどき。私と殿下、そして兄は伯爵家近くの原っぱに辿り着いた。空は茜色に染まり、原っぱの草が風にそよいでいる。


「原っぱを観察するので、お待ちください」


 そう伝えて、私はホウキに殿下の乗せたままで、魔力を巡らせた。「《観察眼》」の魔法を使い、原っぱ全体を上から見渡す。


(よし、危険な気配はなし。ただの原っぱね)


 観察眼の目に映るのは、どこにでもある薬草、草花ばかり。目を引くような珍しい薬草はひとつも見当たらなかった。


(少し残念)


 もし、珍しい薬草があれば種を分けてもらって、森に植えようと思っていたのだけれど。


「観察が終わりました。ローサン殿下、原っぱに降りますので、しっかり掴まってください」


「ああ、魔女、掴まったぞ」


 殿下の手に力がこもるのを感じながら、私は少しずつ魔力を落とし、原っぱの中央へと降りた。そこに、すでに原っぱへ着地していた、兄がこちらへ歩み寄ってくる。


 私はホウキをしまい、つぎに杖を取り出す。


「さあ、王城へ戻りましょう」


 杖を原っぱの中央の地面に突き立て、王城の位置を探る。ここへ来るより、帰るほうがずっと簡単だ。王城に残る、母の魔力を感じ取ればいい。


「ローサン殿下、兄。転移魔法を発動します。しっかり掴まってください「《転移魔法》」


 一瞬の浮遊感を感じ、王城の庭園へと転移した。私は思わず、ふうっと息を吐く。そのとき、庭園に風が吹いた。私のローブのフードがふわりとめくれ、前髪がふわりと浮き上がる。


「あっ」

「あ、」

「……!」


 額の傷が露わになり、ローサン殿下の視線が私に向いた。だが次の瞬間、兄が一歩前に出て、私ごとその視線を遮った。


 突然の兄の行動に驚く。だが兄は殿下に、おでこの傷を見せたくなかったのだろうか。それはわかる。額から額まで走る醜い傷だから。

 

 殿下と兄が視線を交わし、短い沈黙が流れる。私は兄の背後で前髪をそっと直し、丸眼鏡を押し上げた。兄の背中に隠され、殿下の表情は見えない。


「失礼しました。日が暮れて、遅くなりましたので、これで森へ戻ります。本日は成り行きでお手伝いしましたが……この先はそちらで、ご解決ください」


 兄の後ろで、深く頭を下げる。


「そうだな。魔女、今日はありがとう。また薬が必要になったら、連絡をさせてもらう」


 それだけ告げると、殿下は城へ戻っていった。その姿が見えなくなった途端、私は大きく息を吐いた。


 ただの王家の薬師なのに、王家と関わりすぎだ。


「兄、帰ろう。もしかしたら父に怒られるかも」


「怒られるな……。そういえば冒険者ギルドの納品は? 街に行くなら、肉を買っていこう」


「あ、納品……すっかり忘れてた」


 前日に集めた納品用の薬草は、アイテムボックスに入れて持ってきている。本来なら午後には戻る予定だった。


「無理。今日は無理だよ、兄。もう魔力も、帰る分だけで精一杯。それ以上は使いたくない。納品はまだ期限あるし」


 森以外の場所ばかりを移動して、心身ともに疲れていた。それが兄にも伝わったのだろう。


「なら明日にしよう。森に帰ろう、シャーリー。キョン様には……一緒に怒られてやる」


「ありがとう、兄。森に帰ろう」


 足りない魔力を、苦いガーラナの飴をガリガリ食べて回復して、転移魔法を使いリィーネの森へ戻った。


 ⭐︎


 その後。庭園の柱の影から、すでに帰ったはずのローサン殿下が姿を現した。


(魔女は疲れていて気づかなかったが……使い魔のほうは気づいていたな)


「それにしても……あの額の傷、気になる」


 初めて見た、魔女の素顔。そして傷を見せまいとする使い魔の動きと、鋭い視線。それはまるで、俺に見るなと言っているようだった。


「はは……一筋縄じゃいかないか。それでも、僕は魔女が欲しい」


 花のような香り。

 可憐な見た目。


 初対面のときから、ずっと気になっている。


「また会える日が楽しみだな、魔女」


 誰もいなくなった庭園を、しばらくのあいだ見つめ続けていた。

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