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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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40話

 庭でローサン殿下を待っていると、兄が先ほどの真っ白な彼岸花を持つ私を、じっと見ている。


「シャーリー、なんでそれを持ってきた」


「彼岸花って、球根は咳止めなどの薬になるけれど、毒もあるでしょう。令嬢の部屋に置いておくわけにはいかなくて……持ち帰って始末しようと思ったの」


「待て、変な魔法がかかっているかもしれない。今、燃やしてやる」


 兄は有無を言わさず彼岸花を奪い取り、魔火を放った。チリチリと嫌な音を立て、白い花は炎の中で跡形もなく消えていく。


 ――その瞬間、火の中に走った違和感。


(呪い……? いいえ、たぶん違う。これは探知魔法)


 あの魔法使いは、私が彼岸花に毒があると理解し、持ち帰ることまで読んでいた。そのうえで、気づかれないよう探知魔法を仕込んだ。


 兄も異質な魔力に気づいたのだろう、驚いたように目を見開く。私も思わず息を吸い込み、喉からひゅう、と音が漏れた。


「探知魔法だ……。あの魔法使い、侮れないな」


「もし花を持ち帰っていたら……魔法を辿って、私を探しに来ていたでしょうね」


「リィーネの森までは来られなくても、間違いなく動いていただろう」


 たった一度のほんの短い時間で、それだけで私に興味を持つなんて。けれど、魔女にとって“珍しい存在”はそれだけで執着の対象になる。


(魔力量も相当ありそう。執念で探してきそうね)


 私は杖を振り、この屋敷に残っている兄と私、特有の魔力の痕跡を消した。そしてホウキを取り出し、そばにいる兄を見上げる。


「兄。この場所に私の魔力を残すのは危険よ。転移魔法は離れた場所で使った方がいいかも。いまから、使えそうな場所を探してくる。殿下が屋敷から出て来たら、そう伝えて」


「分かった。それがいい」


 私はホウキに乗り、庭の上空へと浮かび上がる。そして転移魔法が安全に使える場所を探して、夕焼けの空へと飛び立った。


 ⭐︎


 数分後、伯爵家の近くに人目のない原っぱを見つけ、私はそのまま兄の元へと戻った。


 庭に兄と、ローサン殿下が並んで立っている。どうやら、令嬢との話は終わったようだ。


「すみません、お待たせしました」


 そう声をかけ、ふわりとホウキのまま二人の前へ降り立つ。兄から事情を聞いたのだろう。箒に乗って現れた私を見ても、殿下は何も問わなかった。


「兄、伯爵家の近くに広めの原っぱを見つけたわ。そこで転移魔法を使って、王城へ戻るわ」


 傍で頷く殿下に視線を向けた。


「いまからその原っぱに向かうので、ローサン殿下は私のホウキに乗ってください。兄は後から、追いかけてきて」


「分かった」


 兄は短くうなずくと、魔獣の姿へ変えた。

 私はホウキの柄を伸ばし、二人乗りできるよう形を変えて、後ろに殿下を乗せる。


「ローサン殿下、いまから飛びます。しっかり私の腰につかまってください」


「腰? ああ、失礼する」


 横座りの私の腰に、ためらいがちに触れる殿下の手を確かめて、私は魔力を込め地を蹴った。


 ふわりと、ホウキが浮かび上がる。

 その瞬間、わずかに緊張を帯びた殿下を背に、私たちは夕暮れの空へと飛び立った。

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