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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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38話

 マトローナ伯爵家の庭へと転移した私たち。

 殿下はローラ令嬢の両親と話をしてくると言った。その殿下に、私は「一人で来たことにしてほしい」と頼む。


 なぜだ、と疑問の眼差しを向けられ、私は正直に答えた。


〈できれば、王家やギルド以外の方とは、あまり関わりを持ちたくないんです〉


 殿下は一瞬考え込むように私を見つめ、やがて納得したのか小さくうなずくと、伯爵家の屋敷へと向かっていった。


 数分後、戻ってきた殿下は、ローラ令嬢の両親から彼女の部屋へ入る許可を得たと告げる。魔法で強引に侵入するより、よほど正当なやり方だ。


〈魔法使いについて、彼女のご両親は何か言っていましたか?〉


〈言っていたよ。いつも彼女の部屋を見ていた魔法使いは、数分前に用事を思い出したと言って帰ったそうだ〉


〈……帰った? そうですか〉


 もしかすると、魔法使いの興味が私へ移ったことで、ローラ令嬢への執着が薄れたのかもしれない。


(……ううん。その真相は後回しね)


 今は、偵察鳥では確認できなかった、彼女自身の様子を見なくては。


〈では、彼女の部屋に向かいましょう〉


〈ま、待て魔女。いくら幼なじみとはいえ、僕は令嬢の屋敷に無断で入るわけにはいかない。これから屋敷のメイドが案内してくれる〉


〈あ、そうですよね〉


 屋敷へ向かう途中、後ろを歩く兄へと振り返る。


〈そうだ、兄。魔法使いがいないとはいえ、何か罠を仕掛けていないか、伯爵家の周囲を確認してもらえますか?〉


〈わかった。終わったら合流する〉


 兄はそう答えると魔獣の姿へと変じ、そのまま気配を消した。私も殿下に断りを入れ、姿消しの魔法を発動する。


 姿を消したまま殿下の袖を掴み、腕輪型の魔導具を手渡した。


〈ローサン殿下。この腕輪を付けていれば、私が姿を消していても見えるようになります〉


〈姿が見えるのか。わかった、これを付ければいいんだな〉


 殿下は腕輪をはめ、私の姿を確認すると屋敷へと向かった。入口近くで待っていたメイドに案内され令嬢の部屋へと進む。


 メイドは二階の奥の扉の前で足を止め頭を下げる。


「こちらが、ローラお嬢様のお部屋です」


「そうか、案内ありがとう。用が済んだら連絡するから、下がっていい」


 メイドは深く一礼し、その場を後にした。


 ローサン殿下が扉を開ける。その後ろを追い、部屋へ足を踏み入れた瞬間、ふわりと鼻をくすぐる香りが漂った。


 偵察鳥では感じ取れなかった、薬草を焚いたお香の匂い。


(……これは、なんの薬草の香り?)


 姿を消したまま、クンクンと鼻を鳴らし、部屋の中を注意深く嗅ぎ回る。やがて、一つの香りに辿り着いた。


 ――ネネーナ草。

 眠れない者のために調合される薬草だ。


(どこ……あった)


 ベッド脇のテーブルに置かれた香炉へ近づくと、その横に真っ白な彼岸花が添えられていた。


 白い彼岸花。

 花言葉は『想うはあなたひとり』『また会う日を楽しみに』。


(……やっぱり、私に会う気満々ね)


 あの魔法使いの男を思い出し、思わず苦笑が漏れる。


〈魔女、何をしている。早くローラ嬢を見てくれ〉


 ローサン殿下の声に、彼岸花から視線を外し、ベッドへと向き直る。眠るローラ令嬢の肌は白く、長く眠り続けていたせいかひどく痩せ細っていた。


 ――これは、非常にまずい。


 学園卒業後、魔法使いは彼女が死なないよう最低限の処置だけをしていたのだろう。

 だが、魔力を持つ彼女の体力は、今にも消え失せそうに見えた。


 私はアイテムボックスを開き、母特製の栄養薬を取り出す。第一王子殿下も服用している、一瞬で体力を回復させる代物だ。


 効き目は、当然保証済み。

 私は彼女の口を開き、躊躇なく薬を飲ませた。


 突然液体を流し込まれたローラ令嬢は激しく咳き込みながらも、はっと目を開く。


 そして、文句を言った。


「もう……すごく良い夢を見ていたのに! 誰よ、わたしを起こしたのは?」


 目をこすりながら起き上がり、すぐそばに立つローサン殿下の姿を見つけ、目を大きく見開く。


「え……? ローサン様……どうして、ここに……」


 薬で目を覚ましたとはいえ、かつてよりも細くなったローラ嬢の姿に、ローサン殿下は言葉を失った。


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