23話
静かな書庫で兄と肩を並べ、同じテーブルに向かって本をめくる。
本の妖精は私たちと同じ卓に腰掛けながら、「気にしないでいいわよ」とでも言うように、にこにこと微笑んでいた。
だから気にせず本を読む。さすがは魔女が記した魔導書だ。ページをめくるたび、知らなかった知識が次々と姿を現す。
(これは……たくさんメモを取って、持ち帰らなくちゃ)
アイテムボックスを開き、メモ帳数冊とペンを取り出す。テーブルの隣に置き、今度は別の杖を手に取った。
「『この本を記録せよ』」
杖を構えて唱えると、魔法が発動する。
これは記録杖、書物を書き写すための杖。
魔法に応じてメモ帳がひとりでに開き、ペンが勝手に動き出す。私が記録したいと意識した本の内容を、文字通り写し取っていく。
書き写すは、美容に関する書物。
ものの数分でペンが最後の一行を書き終え、ふわりと光が収束し、書き終えた分のメモ帳はポンと音を立てて一冊の本へと姿を変える。
書い終わった本を手に取り、確認して終了。許可が出たんだ、この魔法を使い多くの本を持って帰りたい。
「シャーリー、この本いいか」
「いいよ。どんな本が見てもいい?」
「ああ、いいぞ」
私は兄から受け取った本を開いた。それは武器について記された本だった。いかにも兄らしい選択に、思わず微笑む。
私は魔法を発動させる。
この《記録魔法》はとても便利で、緻密な挿絵でさえ正確に写し取ることができる。魔女が残した走り書きや、余白に描かれた落書きまでも、すべて余すことなく写してくれる。
だから、自分の魔導書を作るときに、思いつくまま書き殴った走り書きまで残せるからありがたい。
(前は、思いついても書き忘れたり、メモ帳の端に書いては、失くしたりしてたもの……)
しばらくすると、兄の欲しがっていた一冊分の内容がぽんと形になる。それを確認した兄は、間を置かず次の本を差し出した。
今度は薬草の本。
その次は、どうやら調合の本も欲しいらしい。
「任せて。ちゃっちゃと記録するわ」
「無理だと思ったら、すぐ言え。その魔法……魔力を使うだろう。きついと感じたら、すぐ止めるんだ」
「ええ、わかってる」
一冊まるごとを記録し、書き写すこの魔法は、想像以上に魔力を消費する。欲しい本は山ほどあるけれど、魔力切れの後始末がどれほど大変かは身をもって知っている。兄が心配するのも、もっともだった。
(兄も本当はもっと頼みたいはず。でも魔力切れのつらさを知っているから、三冊までに抑えてくれたのかな?)
それでも、この機会を逃せば、次にこの書庫へ足を踏み入れられる保証はない。
(魔力切れに気を配って、欲張らないように……本当に必要なものだけ記録しなくちゃ)




