18話
殿下と並んで書庫に向かっている。これは……まずいかなと思わせるほど、周りの注目を集めた。まだローサン殿下には婚約者がいないから、まず大丈夫だとは思うけど。
魔女をエスコートって、いままでにあったのだろうか。いや、周りの反応からないかも。書庫に誘われる自体もなさそうだ。
(母のときなかったように感じる)
「魔女、書庫のあと庭で昼食をとろう。その後はお茶をしながら読書だな」
「昼食、お茶ですか? ……はい、よろしくお願いします」
書庫に誘われたときから、殿下と一日中過ごすのだろうなと覚悟を決めていた。それは兄もだろう、後ろから小さなため息が聞こえた。
だが、禁魔導書は読みたい。新たな知識は楽しみだし、他の魔女の調合の仕方を知れる。わくわくしかない禁魔導具なのである。
〈シャーリー、杖を持ってきたか〉
〈うん、持ってきてるよ。あと殿下へのお土産も持ってきたよ〉
昨日作ったアップパイとクッキーを包んで持ってきた。でも直接渡すことはできないだろう、ローサン殿下へは毒味の後に渡されるはず。
〈昨日の、アップパイとクッキー美味かった。また作って欲しいな〉
〈いいよ。あと一回でパイ生地が終わるから、次に作るとき手伝ってね〉
〈わかった〉
城内を進み、木造の大きな扉の前で足を止める。殿下は微笑みながら告げた。
「魔女、ここが書庫だ。そして、これが禁魔導書の鍵。書庫の奥にあるから、中に入ったら開けよう」
そう言われても、ローサン殿下は手を離さない。まさか、鍵を開けるまでこのまま……?
扉の前に立つ騎士が一礼し、重厚な扉を開いた。私はそのまま殿下に連れられて中へと入る。
おお、これが王城の書庫。
木材で作られた本棚が整然と並び、大きな格子窓からやわらかな光が差し込んでいる。森にある、魔法で拡張された母の書庫のほうが、広さも蔵書の種類も勝っているけれど。
(でも、これはこれで……落ち着けそうな空間ね)
ローサン殿下は迷いなく書庫の奥へと進む。
そこにあったのは、魔法で封じられた扉型の魔導具だった。




