17話
招かれた殿下のお部屋は、白とブルーの壁紙が爽やかに調和し、天井のシャンデリアが柔らかな光を落としていた。暖炉、テーブル、ソファ、どれも見たことのないほどの上質な家具ばかりだ。
その部屋の中でローサン殿下はいつもとは違う、シャツにスラックスという肩の力の抜けた装いで、ソファにゆったりと腰掛けていた。
私は空いた手でローブの裾を摘み、深く頭を下げる。
「おはようございます、ローサン殿下。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「おはよう、魔女。……ところで、隣にいるのは?」
殿下の視線が、私と、その隣で手を繋いでいる兄へと向けられる。私は息を吸い、殿下に説明した。、
「ローサン殿下、彼は以前、顔見せでご挨拶しました。私の使い魔ヴォルフです。本日は書庫で本を読ませていただけると伺いましたので、人型をとっています」
「ローサン殿下、魔女シャーリーの使い魔ヴォルフです」
兄は穏やかに、しかし礼儀正しく頭を下げた。その姿に殿下は頷く。そして何も言わず、殿下は兄と繋がれた手をまたじっと見た。
――手を繋いでいるのが、気になるのかな?
〈なぁシャーリー、すげぇ見てくる。そろそろ。手を離した方がいいんじゃないか?〉
同じことを思ったのだろう、兄から念話が飛ぶ。
〈そうね。なんだか気にしているみたいだから、離した方がいいかも〉
微笑んで、そっと繋いでいた手を離した。温かな手が離れていく寂しさと、昔とは違って兄の手は大きかった。無意識だったとはいえ、手を繋ぐのは久しぶりだ。
(子供の頃はよく、兄と繋いでいたわ)
〈小さい手だったな……それにしても、久しぶりに繋いだなぁ〉
〈久しぶりですね。それと、私の手が小さいんじゃなくて、兄の手が大きいのです〉
ソファに座っていた殿下が立ち上がり、私の前にやってくる。
そして、
「それじゃ魔女、書庫に行こうか」
ローサン殿下が私に向けて手を差し出した。
⭐︎
――もしかして、これって……エスコート?
私は薬師として雇われているだけで、ましてや婚約者でもない。それなのに、殿下の手に触れてしまっていいのだろうかと。断ろうにも言葉が出ず、このままではかえって無礼に当たるかもしれない。そう思い、そっと殿下の手に自分の手を重ねた。
「うん。魔女、書庫まで案内する」
「あ、ありがとうございます。兄、行きましょう」
「おう」
殿下は本当にエスコートに慣れているらしく、自然な動作で私を案内する。薬師採取などで、すり傷の残る私の手より、殿下の手はずっと整っていてきれいだ。それに、私より二つ年下だというのに、その手は兄と同じく私の手を包み込むほど大きかった。




