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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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16話

 杖を取り出して、転移魔法を発動した直後、兄がこちらにかけてくる。いまのいままで面倒くさそうにしていたくせに、どうやらついて来る気らしい。が、術が魔法はすでに発動している。


「え? ちょっ、ヴォルフ兄、もう転移の魔法は動いてます! 早く、私に掴まって!」

 

「おう! わかってる」


 兄が私の体を抱き込んだ瞬間、私たちの姿はリネンの森から王城の外れへと移った。兄もいることを確認してほっと息を吐き、杖を仕舞い兄を睨んだ。


「……兄、危険です。母から習ったでしょう? 魔法発動中の魔法陣に無理やり入ったら、別の場所……異空間に飛ばされてしまうかもしれないんですよ」


 思わず涙声になった私に、兄は手を話してすぐに頭を下げた。


「ごめん、シャーリーごめん。二度としない」


 師匠――母から、過去の転移失敗の話を耳が痛くなるほど、私も兄も聞かされている。異空間に取り残されてしまい、こちらに帰ってこれくなる。そんな最悪を考えて声がふるえた。


 だから、もう一度息を吸い気持ちを落ち着かせる。


「わかってくれればいいです。……わ、私は兄がそんな場所に行っちゃうなんて、絶対いやですからね」


「……ほんとうにごめん」


 私が怒る理由がわかっているから、謝る声が少し弱々しい……そんな兄に私は笑みを浮かべた。


「次から、気をつけてください。さあ、ローサン殿下のところへ行きましょう。今日は兄も一緒に、滅多に読めない禁魔術書をいっぱい読みますよ! 読みたいですよね?」


「ああ、俺も読みたい」

「ふふ。兄ならそう言うと思った。だから、今日は魔獣の姿ではなく、そのまま殿下に会いにいきましょう。さぁ、たくさん本を読んで、メモをたくさん取ります」


 兄を見ると、だなっと笑い合って殿下の部屋へ向かうと。ローサン殿下の部屋の前に、あのに日会った気が強い令嬢と彼女のメイドが立っていた。


 ……できれば、会いたくなかった。


 あの日と同じように、あの令嬢に難癖をつけられた瞬間、私は思わず兄の手を掴んでしまった。ビクリと肩を揺らした兄の反応で、自分が兄と手を繋いでいることに気付き、心臓がどくんと跳ねる。


(……しまった無意識ににぎってしまったわ。離したほうがいい、よね?)


 だが、握られた兄はちらりとこちらを見ただけで、何も言わなかった。兄に拒まれなかった安心にほっとして、手は離さずそのまま歩き出す。


 できれば、あの場所になど近づきたくない。胸の奥がざわつくが、禁魔導書を読むために私は兄と並んで足を進めた。

 

 あちらに、私達の廊下を歩く足音が聞こえたのだろう、令嬢がこっちを向いた。彼女の目が、私を堪忍すると鋭い目を向け、次にとなりの兄を見る。


「あら、あなたは魔女でしたわよね。なぜ、あなたがここに? ……その方は?」


「令嬢、ごきげんよう。隣にいるのは兄です。本日はローサン殿下に書庫へ誘われたので、ご一緒しました」


 嘘偽りのない返答を返したとき、ちょうど中からローサン殿下の側近が扉を開け、令嬢に頭を下げる。


「スルール様。本日、ローサン殿下は休養を取っておられます。スルール様との面会はお約束しておりません。本日はお引き取りください。明日の午後に婚約候補者を集め、お茶会を開く予定とのことで。後ほど、招待状をお送りしますのでお待ちください」


 そう伝えられ令嬢の眉が一瞬ぴくりと動いたが、表情はすぐ平然を装った。


「そうですか、残念です。本日は父よりローサン様へ、最上級のワインを届けに参ったのです。休息なら仕方ありません、ワインだけ渡して帰りますわ。リリー、渡して」


 メイドがワインが入ったカゴを側近に手渡すと、令嬢は優雅に頭を下げ、去り際に私へ視線を向けた。


「魔女、ローサン様はお休みですわ。あなたも書庫に誘われたなんて嘘を言わず、帰った方がよろしいのでは?」


 あなたも帰りなさい、と言わんばかりの言葉。

 けれど、その場で声をかけてきたのは殿下の側近だった。


「よくおいでくださいました、魔女シャーリー様。中で殿下がお待ちです。どうぞ、お連れ様とご一緒にお入りください」


 丁寧な一礼に、私は軽く頭を下げて返す。


「はい。兄、行こう」

「おう」


 兄と手を繋いだまま、前を通り過ぎる瞬間、婚約者候補、スルール嬢の鋭い視線が刺すように追ってきたが。足を止めず、私は兄とともに殿下の部屋へと入った。

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