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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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13話

 転移魔法で森に戻ると、兄はオオカミの姿から獣人の姿へと変わり、私を振り返った。


「シャーリー、帰り際にあの男が呼んでいたぞ。帰っきて、よかったのか?」


「いいわよ。頼まれた薬の依頼も済ませたし、挨拶もしたもの。……お茶とケーキは美味しかったけど、あの場所に長居したくないわ。長居したら、また何を言われるかわからないもの」


「わかる。俺もだ……たが、イチゴのケーキは本当に美味かった」


 兄の言葉に思わず苦笑しつつ、私はアップルパイ用のリンゴを採りに行く準備を整えるも。また、胸の奥がムカムカしていた。


 私の心を込めた手作りで、魔女の祝福も込めたポプリをいらないなんて……。あとから欲しいって言われても、もう渡さない。


 イライラを押し込み、ホウキにまたがる。


「父、兄、東の森にリンゴを採りに行ってくるね」


「リンゴ? ついていくか?」


「ううん、今日はホウキに乗りながらリンゴを採るから平気。兄は顔見せもあって疲れたでしょう? ゆっくり休んで」


「……わかった」


 お昼寝に向かう兄の背を見送り、私は空へと飛び上がった。東の森にある果物園で、必要な分だけリンゴを収穫する。


「そうだ。せっかく東の森まで来たんだし、梨とぶどうも取ろっかな?」


 夕飯のデザートにしようと、リンゴのほかに梨とぶどうを収穫して、アイテムボックスへしまい込う。さて、夕飯の時間までアップルパイを焼くかと、かんがえたけど。


「今日は疲れたから、帰ったら薬師帳つけて……夕食までお昼寝しましょう」


 ホウキの上で呟きながら帰宅すると、家の前で、父と兄がのんびり日向ぼっこをしていた。リンゴ採りから戻った私は二人に昼寝をすると一声かけて部屋に戻り、着替えてベッドに横になろうとした。


 その瞬間、呼び鈴が鳴る。誰から来たのかわかり、ため息をつきながら通信鏡の前に座る。やはり画面には眉をひそめたローサン殿下が映っていた。


「先ほどはありがとうございました。何かご利用ですか?」

 

 声をかけると、彼は。


「魔女シャーリー。先ほどは婚約者候補たちが失礼をした。すまなかった」


 と謝った。第二王子が一介の魔女である、私に謝るなんて……本当に真面目な方だ。それに彼女達が私に冷たいのは、みんな殿下を好きだからだと思う。恋愛の本にも書いてあった。


「私は気にしていません。本来、魔女は距離を置かれるものです。……それに知らない女性が、婚約者の殿下の部屋から出てきたら、誰も警戒もしますよ」


「だが彼女たちには魔女、王家付きの魔女の話はしてある」


「それでも、女性で魔女だからです。そうなので、お忙しいのにお気になさらないでください。何か薬のご用件がなければ、これで失礼します。……頭痛薬の薬は苦くても、ちゃんと飲んでくださいね」


 何か言いかけた殿下を無視して、私は一方的に通信鏡を切った。


 あのときの、婚約者候補たちの態度はただの牽制だ。

 第二王子の婚約候補という立場で、魔女の私に必要以上、近寄るなと言いたいのだろう。


 年上の母なら安心でも、歳の近い私ではダメ。

 嫉妬の矛先になるのは目に見えている。


「ローサン殿下も大変だ。彼女たちの相手に執務まであって……そのうえ魔女のことまで心配。そして第一王子――シャーロック・スカロード殿下のご病気の件もあるのに……」


 彼は王太子に選ばれるはず、十六歳の殿下の五歳年上で、第一王子の眠り病気は大魔女の母でも治せなかった。しかし眠ったままで、夜に苦しむ第一王子。


(母が古代魔導書、昔の資料を読んでも、治す手がかりが見つからない。薬師としての大切な仕事だけど、今日のことがあると……殿下へ薬を届けに行くのが少し億劫になっちゃう。女って怖いな……)


 ため息をして、お昼寝のためにベッドに潜った。

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