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リィーネ森の魔女  作者: にのまえ


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10話

 冒険者ギルドへの納品を終え、今度は兄のリクエストに応えてルルーカの街の肉屋に寄る。近々、兄の歓迎会を開くつもりだったから.今日は思い切って財布の紐をゆるめるつもりでいた。


「ギューギュー、一頭ください」


 そう告げると、店主のおじさんは目を丸くしつつも、慣れた手つきで帳簿をめくった。


「へい、毎度。お支払いは魔女銀行ですか?」

「はい」


「ギューギュー一頭は、五百万カロになります」


 私は魔女銀行のカードを取り出す。母が私の魔女としての誕生祝いに作ってくれたブラックカード。そのカードを、魔女用の支払い台の魔法陣にそっとかした。

 

 魔法陣が反応して、淡い光が走り魔力でお金が払えて、残高が確認される。


「魔女様、支払い完了です。いやぁ、さすが魔女様だねぇ。太っ腹だ。いま一頭出しますので、店の裏に回ってください」


 私は兄と店の裏に周り、ギューギュー一頭を出してもらい、アイテムボックスにしまった。

 

「いいお肉が買えたね。次は古本屋に行こう」


 リィーネの森が近いからか、たまに掘り出し物があるから、この街の古本屋を覗くのは密かな楽しみだ。店に入ると、ぎっしりと並んだ古い本が、私の魔力に反応してほのかにきらきらと光った。


(あ、反応した。あれは魔女が書いた本ね)


 手に取ってページをめくると、魔女が記した魔導書の写しだった。しかし載っているのは魔法陣でも呪文でもなく、レタスを使った妙に凝った料理。


(この魔女、料理が趣味なの? レタス料理なんて珍しい……母が喜びそう)


 次の本を探そうと顔を上げると、兄は少し離れた棚の前で夢中になっていた。覗いてみれば、古い薬草の本を手にしている。


(あれはめずらしい薬草の本? 兄が好きそう。私はこっち)


 隣の棚に視線を移すと、魔女が書いた化粧水や美容液の美容レシピの本があった。ページをめくった瞬間、心が決まる。


(欲しい。これは絶対買う。あとは恋愛小説も一冊くらい欲しいな)


「兄、欲しい本があったら買うから持ってきてね」


「おう」


 完全に薬草の本に夢中みたい。そんな兄を横目に私は料理の本、美容の本、小説と欲しい本を次々に選んでいった。


 やがて兄も薬草本と、武器の本を数冊抱えて戻ってきて、まとめて支払いを済ませる。そのまま服屋、雑貨屋と、必要なものを順に買い揃えた。


「私の買い物は終わったけど、兄は他に必要なものある?」


「うーん……ないな」

「じゃ、森へ帰ろう!」


 ルルーカの街を出たところで、転移魔法を発動させる。淡い光に包まれ次の瞬間、私たちは《リィーネの森》へと転移した。

  

「お疲れ様でした。夕飯まで自由時間ね」


「わかった。なぁシャーリー、さっきのギューギュー、ステーキにするか? それとも焼き肉か?」


「一頭買ったんだから、ステーキと焼き肉両方作るわ。あと、シチューも作りたい。今日は兄の歓迎会だから東の国で採れる、珍しいお米も炊くわね」


「なに? 幻の米を炊くのか、やった!」


 なかなか手に入らない、東の国で採れる米が食べられると喜ぶ兄に微笑み。私は隣で、ステーキにはおろし玉ねぎのソース、焼肉は甘辛いタレで焼肉丼がいいかなぁと。


 献立を思い浮かべながら家へ向かうと、家の前でキョン父がいつもの場所で昼寝をしていた。


「父、ただいまー!」

「キョン様、戻りました」


 私と兄が声をかけた途端、キョン父の尻尾がぴくりと動いた。これは……おかえりの挨拶? いや、この動きはお帰りの挨拶じゃない。


 父はむくりと頭を上げ、口のまわりをペロッとひと舐めする。


(……買ってきた、お肉に気付いたようね?)


「ククク、シャーリーいい肉を買ってきたな。夕飯はステーキか? 焼肉か?」


「今日は両方、ステーキと焼肉丼!」


 その返事に、キョン父の尻尾は嬉しそうにぶんぶんゆれた。


 ⭐︎


 翌日の早朝、ローサン殿下に頼まれた頭痛薬と、ラベンダーのポプリを手に私は王城へ来ていた。私は正装で、隣を歩く兄はオオカミの姿だ。


 なぜ、兄が獣の姿なのかというと。

 

  ローサン殿下へ薬を届けるついでに、兄の顔見せも済ませてしまおうとそんな話になり、どうするか兄に聞いたところ「オオカミの姿がいい」と言ったので、兄はオオカミの姿のまま王城に来ている。


 ――驚くかな? お思ったけど。


 王城の騎士、使用人たちは前にフェンリルの父を見ているからか、驚きもせず落ち着いている。


「いい天気だね」

「ああ。森とは違う、春の花の匂いがする」


 森では感じられない、風にのってふわりと漂う花の香り。柔らかな春の陽気に包まれた朝の王城の廊下を、私と兄はゆっくりと歩いていた。昨夜の夕飯がよほど気に入ったのか兄は尻尾を振り、足取りもどこか弾んでいる。


「いやぁ。昨日の、晩飯の肉は本当に美味かったなぁ。今日の夕飯の、ギューギューのシチューも楽しみだ」


「ほんと、お肉美味しかったね。……ギューギュー、一頭買ったのに、父がほとんど食べちゃったけど。なんとかシチュー分のお肉を確保できてよかったぁ」


「ハハハ、あれはキョン様の本気だったな。尻尾をあんなに振る姿は久しぶりに見た」


「うん、うん。あんなに喜ぶ父、私も久しぶりに見たよ」


 笑いあいながら、王城の廊下を歩いていた私たちだったが。数時間後には、そろって大きなため息をつくことになるのだった。

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