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33.密かに追う影

 

 森の生態系は以前とそう変わりない。

 魔物がやたらと強くなっている事を除けば、それは確かにまったくその通りなのだけれど……何というか問題はそこじゃ無い。

 もっと根本的な認識が綺麗さっぱり抜け落ちているのだ。


「え?ダンジョンに違和感を感じないか、ですか?んー、そうですねえ……違和感と言われましても……」


「私達が知っているダンジョンはもっとこう……狭くて、臭くて、暗くて、じめじめしてて……」


「地下にこんな広大な空間があるだけでも驚きなのにって事です」


「そう!それ!」


 ライオネットはそこまで聞いてようやく私達の言いたいことを理解したらしく、何かに気付いたように手を叩いていた。

 何でもお見通しのような態度をとっていた姿とは真逆だ。


「ああ、そういう事ですか。すみません。もうこの状態にも慣れてしまっていて失念していました」


「慣れって、こんなに凄い変化なのに……」


 ダンジョンは変化したなんて次元じゃない。

 構造から生態系、地上と変わらない気候変動がある。

 それはつまり、地下空間にいくつもの新しい世界が存在している事と同義だ。

 私が知る限り、神や悪魔でもこんな真似は出来っこ無い。


「あはは。何というか、非常識な存在が身近にいると大抵のことは納得出来てしまうんですよ。あまり細かいことを気にしていたら、こちらの身が持ちません。まあ、お二人にもそのうち分かりますとも」


「「……?」」


「さあ、先を急ぎましょう。あまり待たせるとガハルドが煩いですからね」



 私とミトがこのライオネットという名の少年が只者ではないという確信を得るのに、そう長い時間は必要無かった。


 私達の前をまるで庭でも散歩しているかのように歩いてい姿には隙がまったく無い。身のこなしが異常。どんなにぬかるんだ場所を歩いても、枯れ枝が生茂った場所を歩いても音一つしないどころか、足跡すら残っていない。

 自分の体重を完全に操っているとしか思えないのだ。

 おまけに周囲への警戒も完璧。可愛い顔をしているくせに、やけに戦い慣れた雰囲気をひしひしと感じる。


(そうだ、ちゃんとライオネットの動きを観察して覚えておかなくちゃ。また、二人になっちゃうかもしれないし)



 レイヴンは言った。

 冒険者に必要なのは戦闘技術よりも知識だと。


 最初はレイヴンが強いからそんな事を言うのだと思っていたけど、確かにこれだけ変わってしまった環境を生き抜くには力だけではどうにもならない。

 ここでは一つの階層に異なる気候が同時に存在している。当然、魔物の生態も気候に合わせて変化しているだろう。

 魔物が強くなったというのは、何も力だけのことでは無いという事だ。

 本格的な戦闘が久しぶりだった私達が魔物を倒すことにあまり苦労しなかったのも、運が良かっただけだと考えておいた方が良さそうだ。




 ーーーーーーーーーーーーーーー



「これはちょっと予想外だね。まさかガハルド達と遭遇するとは思わなかったよ。本当なら、とっくに地上に帰っている頃なのに……」


「そうでもない。ガハルドはともかく、ライオネットは勘の良い奴だ。何か勘付いていたのかもしれない。いずれにしても、余計なことはしないだろう。それよりも……」


「ロアの力か。本人はまるで意図していないのにね」


 マクスヴェルトとレイヴンは気配を消したまま二人の後をつけていた。


 レオンハルトを探すヒントにちゃんと気付いたまでは良かったが、てっきりもう一度町へ戻って支度を整えると思っていたのに、まさか本当に二人だけで先へ進むとは思っていなかった。

 危なっかしい場面もちらほら見られるものの、強力になった魔物への対処も今のところ大きな問題も無い。

 しかし、それもこの結果を見せられては、もうロアの持つ力が作用しているとしか考えられない。


「運命を導く力。運命を乗り越えるのでは無い、手繰り寄せる力か……出鱈目だな」


「レイヴンがそれ言う?」


「……」


「運命なんて糞食らえ。僕もそう思っているけれど、アレはそういうのも全部ひっくるめて彼女の深層心理の影響を受けて作用してる。自分に都合の良い未来を引き寄せ現実にする力だと言えなくもない力だよ。状況に流されていると感じているのも、その力が作用していることに気付いていないからだと思う」


「なるほどな。固有能力と関係があると思うか?」


「それなんだけさ、彼女がレイヴンと戦った時に言った詠唱を覚えてる?精霊イフリートを召喚してみせた時のやつ」


「ああ……」



 “我が呼び声に応えて召喚に応じよ。我が名はロア。万物の創造者也。召喚、イフリート”



「自分のことを“万物の創造者” って言ってた。レイヴン、彼女は精霊イフリートを召喚したんじゃ無い。文字通り創ったんだよ」


「創った?」


 精霊魔法は精霊と契約して初めて行使可能な非常に高度な魔法だ。

 魔法の才に長けたルナでさえ、精霊との契約無しには魔法を行使出来なかった。


「原理は不明。僕が見ても精霊の反応があった事以外には何も分からなかった……。あれが本当なら……いや、むしろ本当だと思うけどさ、どうにかしてあげないとね」


「問題無い。俺もロアの言う“楽しい”とやらに興味があるからな。レオンハルトの件もどうにかする」


『ついでに主殿のお節介もどうにかしてもらうと良い』


「……煩い。それは、俺の勝手だ」


『また無茶をしてくれるなと言っている。世界の改変は概ね完了しているが、まだ完全とは言えない」


「分かっている。マクスヴェルト、行くぞ」


 レイヴンは無事に獲物を仕留めたロア達を追って移動を開始した。

次回投稿は8月5日を予定しています。

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