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31.考察

 

「大地の精霊よ!我が手に集いで束縛の棘となせ!今よロア!!!」


 ミトの魔法で動きが鈍くなった魔物を私が剣で仕留めていく。

 久しぶりの魔物相手の戦闘だけれど、やっぱり長い間一緒に戦ってきたミトとの連携はとても良い感じだ。

 欲しいタイミングで欲しい補助をくれるのは戦い易い。


「ナイス!ミト!うりゃああぁぁーーー!!!」



 二十一階層に入った途端に魔物に襲われてからというもの、私達はひたすら移動を繰り返しながらどうにか魔物をやり過ごしていた。

 固有能力ギフトからはあの不思議な声は聞こえて来ない。


「ふう……キリがないわねまったく……。でも何とかひと段落ついたって感じかしら?久しぶりで緊張してたけど、何とかなるものね」


 レイヴンには四、五階層くらいまでならって言われていたけれど、今のところは大した苦戦もしていないし、手に負えない危険な魔物と遭遇することも無かった。

 単に運が良いだけかもしれないが、こうして何とか対処出来るのだから案外何とかなるかも。


「ねぇ、何で先へ進もうと思ったの?レオンハルトは地上へ向かってるかもしれないのにさ」


 普通に考えて一人で先へ進もうだなんて思わない。

 行方知れずのレオンハルトを探すために地上へ向かうのではなく、あえて更に深部を目指すというミトの思惑については未だ聞けず終いだった。



 ミトは乱れた髪を整えながら私に理由を話し始めた。


「いろいろ理由は考えられるけど、私はレイヴンの行動が気掛かりなのよねぇ……」


「レイヴン?レオンハルトじゃなくて?」


「そう。だって、考えてもみなさいよ。戦うことよりもダンジョンで生き残る為の知識の重要性をあんなに真剣に話していたのに、私達をこんなところで放り出したりする?」


「え、でもだって今そうなってるし……」


 少年とレイヴンの行動が不可解なのは私も同意するところだ。

 説明している時のあの真剣な眼差しは本物だったし、嘘をつくだとか演技をするような器用なタイプには見えない。


 ミトの言っていることは分かるけど、現に私達はダンジョン内に置き去りにされている。

 どれだけ知識の重要性を説いていても状況的には矛盾しているのも事実だ。


「だから変なのよ。多分、今も何処かで私達のことを見てるに違いないわ。レオンハルトの行方も知っているでしょうね」


「ま、まさか……。どうしてそう思うの?」


「はあ……少しは自分で考えなさいよ。いい?マクスヴェルト様は地上へ戻る事でSランク昇格を認めると言って手紙を残したわ。だけだと、そこにはレオンハルトの名前は無かったし、私達だけじゃ地上へ戻るのも不可能。第一、仮に無事地上へ戻れたとしても、それじゃあパーティーを組めと言っていたこととも矛盾するもの」


 パーティーを組むからには、行動を共にする仲間とは一蓮托生。

 経緯はどうあれ仲間を見捨てて自分達だけ生き残るだなんて絶対にあり得ない。


 助けを求めに行った冒険者組合でも高度な幻覚魔法を使って邪魔をして来た。

 それは明らかに私達をダンジョン内に留めさせるのが目的であり、自力でレオンハルトを見つけてみろというメッセージだろうというのがミトの出した見解だった。


 しかしーーー


「何それ。駆け出しの冒険者にすることとは思えないんだけど……」


「そうね。それも引っかかる。だけどマクスヴェルト様とレイヴンの会話から想像がつくわ」


「……?」


 ミトの更なる見解はこうだ。


 そもそも私達とレオンハルトが揃ってレイヴンの教えを受ける事自体が予め仕組まれていたのだ。

 いくらレイヴンが腕利きの最高位冒険者でも、短期間であれだけの調査資料を用意出来る訳が無い。

 鶏を追いかけ回した話にしても、ずっと以前から調査をしていた裏付けになる。


 しかもだ、初めから私達の戦闘能力については問題にもしておらず、レイヴンがあえて四、五階層までだと言った発言も、無茶をしそうな私に自重を促す目的があったのだと考えれば辻褄は合う。

 今こうして魔物への対処が問題無く行えていることから、それもはっきりしているだろう。


「こんな簡単な事にすら気付けないだなんて、思考誘導する魔法を使われていたとしか思えないくらいだわ。最初は私達の方を“どうにかするつもり” なのかとも思ったんだけど、もしかしたらどうにかしたいのはレオンハルトの方なのかもね……」


「どうにか?どうにかって何?」


「だから少しは自分で考えなさいって……。マクスヴェルト様もレイヴンも、レオンハルトの実力については多くを語らなかった。仮に……私達と同等か、それ以上の実力を持っていることを意味しているのだとしたら?」


 危険だなんだと言う割に二人が姿を見せ無いのは、レオンハルトが単独でダンジョン探索が可能な実力を持っているから。


 その考えに至った私は、今の今まで行方知れずのレオンハルトの身を案じていたことに疲れを感じてへたり込んでしまった。


 レイヴンの前では大したこと無いみたいな悲痛な感じだったのに、実はこの程度の階層なんてこと無いと思っていたなんて……。

 思い返してみれば確かに私達とは驚くポイントが少し違っていた気がする。


「なんなのよもう……あんなに心配したのに……」


「まあまあ。私も気付いたのはさっきだし。振り回されてばかりだったんだもの、仕方ないわよ」


「そうだけどさぁ……。じゅあミトが緊張してたのは?」


「ああ、魔物相手の戦闘なんて久しぶりだもの。私だって緊張くらいするわよ」


「ぶうーーー」


「ほらほら、そんなにむくれていないで次のお客さんをおもてなしするわよ」



 森をいくらか進んだ辺りから急激に魔物の気配が濃くなって来た。


 移動しながら話しているうちに、私達に気付いた魔物達が集まっているのだろう。それもかなりの広範囲からだ。


(うわあぁ……大歓迎されてるじゃん……)


 なる程、これはどうやら魔物が強くなっているという話は、単に個体の強さだけを言っている訳ではないらしい。


「種を超えた協調性の獲得?そりゃパーティーを組めって言うよわね……」


 同じ種による縄張り意識は以前から見られた。


 だが、これはどうだ?

 異なる個体と種が同じ獲物を狙っている。

 とても個人で対処出来るものではない。


「で、何処まで行くつもりなの?」


「レオンハルトを探すのは変わらないわ。手かがりは何も無い。取り敢えず行けるとこまで行くしかないでしょ」


「ふふ、なら始めようか」


 私は視線を鋭くするミトの横顔を見ながら、自分も昔の感覚が徐々に戻りつつあることを感じていた。



次回投稿は7月25日を予定しています。

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