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29.予期せぬ来訪者

 最高位冒険者第五席カレンは私とミトの予想を超える気さくさで以来の件を承諾してくれた。

 それも報酬の話になった段階で、より顕著になったと思う。


 駆け出しの私達……というか、つい先日まで引き籠りでその日暮らしの自堕落な生活を送っていた私達に用意出来そうなのは、少年こと賢者マクスヴェルトが最初に提示して来た莫大な報酬以外には無かった。


 報酬を受け取るにはレオンハルトを見つけて地上へ帰還する事が最低条件。

 正式なランク持ちの冒険者となれば少年も報酬を渡してくれる筈なのだ。


「いいわよ。それで手を打ちましょう」


「ほ、本当ですか⁈ ありがとうございます!」


 最高位冒険者への報酬額としては不十分。しかし、カレンは私達の提案を二つ返事で了承してくれた。隣で聞いているエレノアも異論は無いようだった。


「その代わりに一つ条件があるわ」


「条件?でも、私達にはマクスヴェルト様からの報酬以外にはあてが……」


「報酬の上乗せなんて要求しないわよ。ロアの言う“楽しい” を私にも見せて頂戴」


「え……」



 私はカレンの条件に戸惑っていた。


 私の言う“楽しい” は、言葉で表現出来る物じゃない。

 ましてや見ようと思って見える物でも無い。


「とにかく、レイヴンとマクスヴェルトが関わっているのなら、貴女の力に何か思うところがあった筈。今回の一件、貴方達が考えているよりもずっと大きな事になる」


「カレン、何も脅す必要は無いと思いますが?」


「何言ってるのよ。レイヴンが絡んでいる時点で面倒事にしかならないのはエレノアだって知っているでしょう?教官をやってたって変わらないわよ」


「それはそうですが……」


 その時だ。エレノアが首から下げていたペンダントが淡く光を放ち始めた。


 とても優しい光だ。

 魔具とは少し違った反応がする。



『主よ。そのいなくなったという少年の事だが、既にこの階層にはいないようだ。北と東に数名ずつ反応があるが、いずれもSランク冒険者として登録されている者達。他に反応は無い』


「……そうですか。では、地上への道を進んでいると考えて間違い無さそうですね」


『普通に考えたら、だ。情報が少ない以上、例外もある』


 ペンダントから聴こえて来た声は淡々と告げた後、光を失って沈黙した。


「あちゃー……新米君の割に無茶するわね。それじゃあ行き先も決まったし、行きましょうか。って、どうしたの?」


「しゃ、喋った……」


「ペンダントが喋った……」


 魔剣や聖剣はある一定の力を有すると自由意思を持つと言われている。

 竜王リヴェリア様の持つ聖剣レーヴァテインは私達の間でも有名だ。しかし、エレノアが持っているのはただのペンダントだ。


 武器ですら無い物に意思が宿るだなんて聞いた事が無い。ましてや、この広い階層を全て探知してしまった能力は異常だ。


「ああ…二人は知らなかったのね。これは聖剣デュランダルよ。貴女達も竜人なら名前くらい聞いた事あるんじゃない?」


 カレンは知っていて当たり前のように言ったが、聖剣デュランダルは竜人族の間でのみ存在を知られる長の証たる由緒ある聖剣だ。

 エレノアはどう見たって竜人には見えない。なら、どうしてそんな大事な聖剣を竜王様ではなくエレノアが持っているのか……。


 そんな私の疑問を解決したのは意外な人だった。



「それはもうエレノアを主と認めた。これからはエレノアが守っていくのだ!!!……というか、まだこんな所でぐずぐずしておったのか。はら、さっさと行くぞ!」


「「りゅ、竜王様⁈ 」」


 姿を現したのは、王城にいる筈の竜王様とシェリル、ステラの双子の姉妹だった。


 王城で見た正装では無い、どこにでもいる冒険者と変わらない出立。

 腰に下げた聖剣レーヴァテインこそ異彩を放っているが、後ろで手を振る二人もまた同じような格好をしていた。


「何でリヴェリアが出張ってくるのよ……」


「ん?そんなの決まっている。退屈だったからだ!」


 いなくなったレオンハルトを探すのに今から地上へ向かって探索をしないといけないのに、退屈凌ぎに来ただなんて私の思っていた竜王様のイメージがガラガラと音を立てて崩れていった。


(あれ?ちょっと待って……)


 仮に竜王様が今回の件に関わっているとして……いや、どう考えても関わっているに違いないのだが、此処へ来る迄に十九階層を突破して来たのだろうか?

 だとしたら、途中でレオンハルトを見つけていてもおかしくない。


「あ、あの!レオンハルトを…!エルフの魔物混じりの少年を見ませんでしたか⁈ 私達、レオンハルトを探していて、その……」


「レオンハルト?」


「ほら、確かレイヴンが何やら熱心に調べていたエルフの少年よ」


「んー、此処へは設置型の転移魔法陣を使って来たからなぁ……」


(転移魔法陣?)


 そんな便利な物があるなんて知らなかった。

 なら、それを使えばいつでも好きな階層へ行けるのでは?地上への即時帰還も簡単だ。


 けれど、世の中そんなに都合良く無い。


「ほら、だから言ったじゃない」


「だいたい、あれを起動するにはとんでもない量の魔力が必要なのよ?ちゃんと正攻法で来てればレオンハルトも見つけられたかもしれないのに……」


「わ、私が悪いのか⁈ ふ、二人だって早く合流したいと言っていたではないか!」


「「あら?そんなこと言った?」」


「なっ……⁈⁈ 」


 三人のやりとりを見ていると笑いが込み上げて来そうになる。


 レオンハルトを探しにいかないといけないのに、次から次へととんでもない人達が集まってくる。

 ここまで来ると心強いを通り越して一層不安になって来るではないか。


「あ、あの!だから早くレオンハルトを探しにいかないと!!!」


 私は勇気を出して談笑を始めた五人の真ん中に割って入った。


 だがーーー


 説得を試みようとした私の頬に、鈍い痛みが走った。


すみません。予定よりかなり遅れてしまいました。

次回投稿は7月14日を予定しています。

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