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26.レオンハルトを探せ

 

 気を取り直した私とミトは、最初にレオンハルトを探すことにした。


 ここで問題なのが、私達がレオンハルトの実力を全く知らない事だ。

 最強の冒険者であるレイヴンが興味を抱いたのは事実。であるなら、エルフという種族の特性と魔物混じりの強靭な身体能力があれば、特別な訓練を積まなくてもそれなりに戦えるとは思う。

 とは言え、ここは私達のような駆け出しの冒険者が足を踏み入れて良い場所じゃない。

 町へ移動してくるまでの道中にも、私達には手に負えなさそうな強い魔物の気配がいくつか感じられた。襲われなかったのは単に、魔物達がレイヴンと少年の異常な力を感じ取ってのことだろう。


「森へ入ったとは考え難いわよね」


「いくらなんでも、そんな無茶はしないと思うけど……」


 まさか一人で森へ入ったとは考え難い。

 私がレイヴン達を探して町中を歩き回った時にはレオンハルトの姿は見つけられなかった。


 入れ違いになっているだけなら良いけれど、私達は念の為にもう一度町の中を探してみる事にした。



「それにしても、こんな場所に町を作ってしまうなんて思い切った事を考えたわよね……。さすが竜王様肝入りって感じかしら」


「転移魔法が使える人が何人もいるとは思えないから、あの少年が一人で材料を運んだのかな?」


「かもね。転移魔法はかなり特殊な魔法だもの。理屈が分かっていても、そうおいそれと発動出来るような代物じゃないわ。こう言ってしまってはなんだけれど、限られた才能の持ち主にしか扱えない特別な魔法よ」


「へぇ……」


 限られた才能と聞いて私の頭に思い浮かんだのは、ルナという名の少女の顔だった。


 魔法の発動に詠唱を必要とせず、相手の魔法を妨害し、そっくりそのまま同じ系統の魔法をぶつけ返して来た。

 特に魔力の元となるマナと呼ばれる物質を意図的に支配して遮断してみせた力は驚愕だった。

 アレをやられては、どんなに腕の良い魔法使いも、自身が内包する限られた魔力だけで戦わなくてはならなくなる。


 昔知り合った魔法使いにも凄い人は沢山いたけど、あんな真似が出来る人は一人もいなかったと記憶している。


 あの様子だとまだ力を隠しているみたいだし、若くして最高位冒険者第三席の肩書きについているのも頷けるというものだ。

 ルナであれば転移魔法も簡単に使いこなしてしまう気がする。



「ロア、そろそろ到着するわ」


 話をしていると組合の建物が見えて来た。


 冒険者でなくても情報を集めるなら酒場が定石だ。

 そんなに大きな町じゃない。冒険者達の溜まり場なら人探しも簡単な筈。


 そう思って最初は酒場を探してみたのだが、どうやらさっきまで食事をしていた宿屋の一室が夜には酒場になるらしかった。

 であれば、レオンハルトが次に情報を得ようとするなら何処へ向かうか考えれば良い。

 仮にレオンハルトがいなくても助力を得られれば探しやすくなる。


「最初に来た時より人が少なくなってるのも何か関係あるかな?」


「この階層に滞在している冒険者に直接話を聞きに行ったって事?だけどロア、この町の中には人が集まっているような気配は無いし、駆け出しの冒険者を森へ連れて行くのもちょっと考え難いんじゃない?」


 確かに普通ならそうだ。

 駆け出しかどうかは問題じゃない。私達がこの場にいる事実は、ある程度の実力を裏付ける材料にもなり得る。なり得てしまう。

 彼等だって、まさか賢者マクスヴェルトが転移魔法で直接この階層へ私達を連れて来ただなんて説明しても信じない可能性が高い。

 そしてもう一つ、彼等がレオンハルトを連れて行く理由があるとすれば、レオンハルトが魔物混じりであるということ。


 魔物混じりは以前の様に魔物堕ちする事は無くなったという話だけれど、人の意識に根強くある魔物混じりへの畏怖の感情がそう簡単に無くなるとは思えない。


 竜王様が推し進めている新しい冒険者制度でも魔物混じりに対する迫害が絶対に無いだなんて事はあり得ないというのが私の考えだ。


「ミト……なんだか嫌な予感がする」


 町を一人で歩く魔物混じりが一人居なくなっても、今でもきっと誰も気にしない。

 適当な持ち物を奪って魔物との戦闘中に命を落としたと組合に報告すればそれでお終い。

 言い訳なんて後からどうにでもなる。


 治安が悪いようには見えなくても、私の勘はよく当たるのだ。



 ミトもそんな私の予感を察したのか、目を閉じて考えた後、一つの提案をして来た。


「とにかく組合の連絡所へ行ってみましょ。まだ町に残っている他の冒険者の力を借りるのよ」


「さすがミト。私も同じ事考えてたとこ」


 方針が決まれば話は早い。

 レイヴンは私達に到達可能な階層を低く言ったに違いない。それはきっと、パーティーを組んでの戦闘という前提を除外しての事だと思っている。

 何故なら、レイヴンのように化け物じみた強さの相手ならともかく、私とミトの固有能力があれば大抵の魔物には対処可能だからだ。


 まさか、レイヴンやクレア、ルナのような異常な強さを持った魔物は早々現れたりしないだろう。もしもそうなら、一般の冒険者にダンジョンを解放したりしないと思う。

 レイドランク、フルレイドランクと呼ばれる異次元の力を持った魔物に対処するにはSSランク以上の冒険者が最低でも十人以上は必要だ。


 少年によって与えられた記憶の通りなら、組合の出張所には常時Sランク以上の冒険者が数名待機している筈だ。

 戦士職なら私のギフトで、魔法職ならミトの魔力変換でサポート出来る。

 彼等全員の力を借りれなくとも、一人でも連れて行ければかなり戦闘が楽になる。そうすればレオンハルトが森へ入っていたとしても探す事が出来るたろう。


「な、なんだか緊張してきた……」


「ここまで来て何言ってるのよ。早くしないとレオンハルトがどうなるか分からないんだからね」


「わ、分かってるよ」


 リアーナさんに近い人達となら多少の戸惑いもどうにか隠せる。

 あんなに優しい人の知り合いなら大丈夫。そんな風に思える。けれど、そうでない全くの他人との接触は未だに抵抗があるのだ。


 情けない話だが、私は今、他人との接触が怖い。


 好きとか嫌いとか以前に、仲良くなってしまうのが怖い。

 その先に待っている別れが怖い。


 そう思ってしまう。


「まったく……ロアの悪い癖よ?考え過ぎても良い事なんかないわ。もっと気楽にいきなさい。そうじゃなきゃ、相手にも失礼でしょう?」


(ミトの言う通りなんだけど……)


「い、行くよ!行くったら!」


 背中を押された私は深呼吸をして組合のドアを開けた。



次回投稿は6月29日を予定しています。

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