23、遊びじゃない
ごめんなさい。
12日投稿予定が遅れてしまいました…。
私達の提出した書類を並べたレイヴンは、冒険者への志望動機の欄を指差して話を続けた。
レイヴンが言うには私とミトに関しては既に力量を確認しているから問題無いとの事。そして、肝心の志望動機については三人共一言しか書いていないという共通点があった。
それが決めてだと言われても、私からしてみれば、“だって他に無いじゃん” くらいの感想しかない。
「まぁ、随分と熱の入った動機を書いている人もいたんだけど、君達三人のが一番分かり易かったっていうのはあるね」
「もしかして、それが理由ですか?」
「うーん……」
私達二人の理由は当然『楽しい』を見つける事。レオンハルトは『一族の再興』と書いていた。
(レイヴンと少年は理由を知った上で?)
さっきの話とレオンハルトの態度を見る限り、他のエルフ達との間には何かしら溝がある様に思われた。
それなのに、目的が一族の再興というのは不思議だ。きっと何か事情があるにしても、それを軽々しく聞いてしまう真似はしない。
レイヴンも何処まで話したら良いのか考えあぐねている風だ。
「……事前に調査していたのもあるが、言葉で飾るよりも、目的がはっきりとしている奴の方が良い。特に名誉や栄誉に興味が無いのも気に入った」
それはそうだ。
私とミトは楽しい事を探して冒険者になる事を選んだ。
お金があるに越した事はないけれど、それ以上に価値のあるモノを私達は知っている。
知らない誰かとの出会いや出来事は楽しい。
キラキラしていて、中にはそうじゃない事もあるけど、私を嬉しい気持ちにさせてくれるから。
種族の違いはそれだけ多くの別れも私に味合わせた。その事が辛くて引き篭もっていた訳だけど、生まれ変わった世界をもう一度見る為なら、また『楽しい』を探しても良いかもしれないと思ったのだ。
けれど、ミトの表情は優れない。
「あの……良いですか?」
「ああ」
「実力と言うけど、私達はロアのギフトを使ってもクレアとルナって子にすら手も足も出なかった……。今回の話はとても驚いたわ。駆け出しの私達にしてみれば有難い申し出の様な気もする。……けど、とてもじゃないけどレイヴンの力になれるとは思えないわ。あまりにも荒唐無稽な話だもの」
「私もそう思う。確かに楽しいを見つける為に冒険者になろうって決めたけどさ。私が欲しいのは冒険者として活動する過程の中でって話っていうか、そういうのだから」
しかし、少年の方は私達とは違う考えのようだ。
少し唸るような素振りを見せると、テーブルの上の資料を手に取った少年はサラサラと何かを書き加えている。
「はい、っと。これで君達三人はAランク冒険者だ。Sランクから上は、これとは別の試験を受けてもらわなくちゃいけないけど。今回は最高位冒険者レイヴンからの特別依頼って事で臨時だね。おめでとう!」
「はあああ⁈ 何勝手な事してるのよ!レイヴンも何か言ってよ!」
「マクスヴェルト様、それはあまりにも……」
「おいマクスヴェルト。俺もそういうのは……。確かにSランク以上の冒険者からの推薦がある時点でAランク相当の冒険者だとみなされる。手続きには何も問題無いが……」
「ええ……⁈ そうなの?」
少年の行動はレイヴンにとっても予想外だったようだ。
少しだけ慌てた様子がまた面白い。
「……じゃなくて!どうしてそうやって話を勝手に進めちゃうの⁈ 大体、冒険者は自由な職業でしょう?何でもかんでも勝手に決めないでよ!」
「えー……。君達ってば、面白いように流されてくれるから、大丈夫だと思ったのに」
「そんな訳無いでしょ!私達は右も左も分からないから大人しく従ってるのっ!ちょっと!ミトもレオンハルトも黙ってないで何か言ってやってよ!偉いんだかなんだか知らないけど、こんなの絶対おかしいって!」
話の流れが滅茶苦茶だ。
一体何がしたいのかさっぱり分からない。
流されてばかりじゃ駄目だと決めたばかりなのに、これではまた同じ事の繰り返しだ。
レイヴンの教えを受けるのは良い。レオンハルトの言うように、こんな機会は滅多に無い。
「僕は……僕は、引き受けようと思います。確かに、どれだけ大変な事かも分からないですけど、やっぱりこんな機会は二度と無いと思うから」
俯いたまま話すレオンハルトの視線は何処かしどろもどろとしていて、今までみたいな強い意志は感じられない。
「はああああ⁈ ちょっとレオンハルト何言ってるのよ⁈ 絶対の絶対の絶対に!碌な事にならないのは目に見えてるじゃん!」
「落ち着きなさいよロア。他のお客さん達も見てるから……」
「それがなんなのよ!ミトはこのままで良いわけ⁈ 」
「そうじゃないけど……」
この場はなんとしても少年の口車に乗る訳にはいかないのだ。
それなのにレオンハルトは甘んじて少年の思惑に乗るつもりの様だ。それだけは何としても阻止したい。
「……君達は良いさ。この話は僕だけでも引き受ける」
「何で?何でそこまで少年の話を信じちゃうのよ!私達はまだ駆け出しなのよ⁈ 」
私が必死に説得していると、レオンハルトは突然立ち上がった。
呼吸を荒くしたレオンハルトは、真っ赤な顔をして拳を握り締めて私の方を睨んで来た。
「君達は自分がどれだけ恵まれているのか分からないのか!」
「ちょ……」
「もう既にレイヴンさんから推薦を貰っていた君達と違って、この話は僕にとってはチャンスなんだ!レイヴンさんの元でなら“俺” はまだ強くなれる!邪魔をするな!」
「な、何よ……!私達だって、いつの間にかそうなってただけで……。レオンハルトだって、この場にいるじゃない!」
「何が楽しい事を見つけたいだ!遊びで冒険者になろうとしてる様な奴に言われたくないんだよ!」
「あ、遊びなんかじゃ……!」
ーーーガタッ。
「はあ……。マクスヴェルト、行くぞ。構っていられるか」
私とレオンハルトが言い争いを始めたのを見かねたのか、レイヴンはため息を吐いて何処かへ行ってしまった。
次回投稿は6月17日を予定しています。
仕事の都合で投稿間隔がまばらになっています。
気長にお待ちいただければと思います。




