15.意外な助言
少年……いや、マクスヴェルトは言った。
私の感情が大きく揺れ動く時、固有能力ギフトは独立した意思を持って宿主を護るのだと。
私がギフトを使って習得していない技や魔法も、もう一人の私なら見聞きしただけで再現出来てしまうそうだ。
無意識のうちに見聞きした情報は蓄積され、理屈では到底解明出来ない力によって実現する。
非常に珍しい事だって話だけど原因については何も分からず終いで、どうして突然そんな事になってしまったのかについては調査中だそうだ。
私の知らない所で、私にも分からない事を調べていたなんて意味が分からないし、それならどうして私に直接言わなかったのかも教えてはくれなかった。
(また勝手に発動した……。一体何なのよ)
化け物に向けられた異常な圧力以上の事なんて早々ある物じゃないと鷹を括っていたのは否め無い。
だって、まさかあの圧力に匹敵する存在が新たに二人も現れるだなんて、そんなの想像出来る訳が無い。
一触即発。
可愛い顔をしてとんでもない殺気を放っているのに、ミトは私の変化に驚いているだけだ。
殺気を向ける相手を正確に絞っているということは、やはりあの二人は只者では無い。
「クレア、ルナ。止めろ」
レイヴンは、今にも飛びかかって来そうな二人の肩を掴んで引き止めた。
「だって……」
「だってじゃない。アレには関わるなと言っておいた筈だ」
「そうだけどさあ……」
良かった。
このまま戦いになったらどうしようかとヒヤヒヤした。
「ロ、ロア⁈ 」
もう一人の私も、ミトの腕を掴んでゆっくりと後退し始めている。
前回の事もある。戦っても勝ち目が無いと理解しているらしいと分かったのはありがたい。
(ナイス!もう一人の私!安心してミト。私が守るから!って、今は聞こえて無いんだった……)
レイヴンは駄々を捏ねる二人を両脇に抱えて私の方に向き直った。
二人の美少女は荷物みたいに抱えられているのに何やらとても嬉しそうだ。
先程見せた氷の様な気配はすっかり消え失せている。
「能力が自立した意思を持っている事自体を不思議だとは思わない。魔剣も意思を持っているからだ。俺が持っている魔剣のようにな」
『制御出来ない原因はロア自身にある。何を抱え込んでいるのか知らないが、能力が勝手にやっている事だと考えているのなら、それは間違いだ。離れているのはお前の心の方だ』
レイヴンの腰に下げられている魔剣が淡く赤い光を明滅させて話しかけて来た。
強力な魔剣が意思を持つという話は竜王様から聞いている。実際に目にすると剣が喋るだなんてなかなか衝撃的だ。
(離れている?私の心が?)
俯瞰して見えるもう一人の私は、レイヴンの話に聞き入っている様な表情をしている。ミトも興味があるらしく、前に出て来ていた。
心が離れるも何も、私はこんな事になってしう原因について心当たりは無いし、これまでにこんな事は一度も無かった。
能力が使えなくなっている原因の方には心当たりがあるけれど、それは私自身が楽しめなくなっていただけで、能力がどうとかというよりも精神的な問題だと自覚している。
「あ、あの!ロアの能力が一人でに行動する理由を知っているんですか?」
「いいや。俺の勘だ」
「か、勘?そんな、それだけで……」
ミトが驚いた様な表情で私の手を握っていた。
「お姉さん、冒険者は楽しくなんか無いよ。何がしたくて冒険者になるかなんて個人の勝手だけど、楽しいだけなら他にも楽しい事は沢山あると思う」
「あのマクスヴェルトに言われたから冒険者になるのなら止めておいた方が良いと思うなあ。他にも何か企んでいるに決まってるもん」
「ルナちゃんが言うと説得力があるよね」
「そんな事言って思い出させないでよ。気にしないようにしてるんだからさ。と、とにかく。僕とクレアが感じているのはそこだよ」
企んでいるとはどういう事なんだろう?
確かに状況に流されてここまで来てしまったのは間違い無い。だとしても、竜王様やリアーナさん達と一緒に過ごした時間は私にとってとても楽しかった。
それとこれがどう繋がるのかなんて考えても見なかったのも事実だ。
私は、ただ純粋にあの人達となら関わりたいになりたいと思ったのだ。
きっと楽しくなるに違いない。
そういう直感があった。
『私は……私はまた必要とされているのなら力になりたいと考えました。もしも、その事がなりたくも無い冒険者という道へ導いてしまっていたのだとしたら、私が出て来たのは間違いだったのでしょうか?』
もう一人の私が普通に話してる。
その声は不安そうで、戦闘中の無機質な声とはまるで違っていた。
「そんな事知るか。不安ならロアに直接聞けば良い。それから、マクスヴェルトの目的はちゃんと聞いておいた方が良いぞ」
『主殿、もう少し言葉の選び方に気をつけた方が良い。先日の件でリアーナ殿にも怒られたばかりだろう?』
「チッ……」
(リアーナさんがレイヴンを怒る?)
本当にどういう繋がりなんだろう。
もう深く関わったりしないと決めていたのに、どうしてなのか私の心は興味をそそられていた。
『私から言える事は一つだ。必要とされたいのなら出しゃばるな。使いこなしてみろくらいに思っておけば良い。その娘が自分の意思で使いこなしてやろうとするまで力を貸してやる必要など無い。私は自分の道も分からないまま漂う様に生きている奴が嫌いだ。人間だろうと、能力だろうと同じだ。状況に流されるだけの奴に光は射したりしない』
「レイヴンみたいな事言ってる」
「さすがレイヴンの相棒。持ち主にそっくりだね」
『……』
レイヴンの魔剣は一頻り喋り終えると赤い光の明滅を止めて黙ってしまった。
「……とにかくだ。冒険者になりたいのなら好きにしろ。無茶をしなければそれなりにやって行けるだろう。じゃあな」
レイヴン達はそう言うと闘技場から出て行った。




