表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第二十六の事件:『緑の、マザーボード』篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/148

第九十五章『灼熱の、ビニールハウス』


デジタル探偵シャドー:第九十五章『灼熱の、ビニールハウス』


2025年10月10日、金曜日、午後3時47分。


豊橋に到着した冴木が、アグリネクスト社の、巨大なドームに、足を踏み入れたとき、そこには、まだ、熱気が残っていた。


彼を、出迎えたのは、憔悴しきった顔の、開発責任者・鈴木海斗と、迷惑そうな顔を、隠そうともしない、地元警察の、初老の刑事だった。


「……お待ちしていました、警視庁の、冴木さん」


鈴木が深々と、頭を下げる。


「わざわざ、すみませんねぇ、東京から」


と、地元の刑事が、嫌味っぽく言った。


「ただの、機械の故障に、大袈裟な」


冴木は、その言葉を無視すると、まっすぐに鈴木に、問いかけた。


「現場を、見せてもらえますか?」


案内された、第1ドーム。

そこは、むせ返るような熱気と、植物が、腐敗した、甘く、不快な、匂いに満ちていた。


「……ひどいな」

「発見時は、もっと、酷かったですよ」


と、鈴木が悔しそうに、言う。


「室温は、95℃に達していました。システムを、強制的にシャットダウンしてから、人間が入れるようになるまで、半日かかりました。……まるで、巨大な、オーブンです」


その言葉に、地元の刑事も、顔をしかめる。

冴木は、枯れたトマトの列の間を、ゆっくりと、歩き始めた。


彼の目は、死んだ植物ではなく、その周囲に、張り巡らされた、無数のセンサーや、ケーブル、そして、スプリンクラーに、向けられている。


「鈴木さん。この温室のAIには、当然異常な温度上昇などを、防ぐ安全装置フェイルセーフが、あったはずだ。なぜ、それは作動しなかった?」

「それこそが、これが『事件』である、証拠です!」


鈴木は、携帯端末を操作し、冴木に一つの、プログラムコードを、見せた。


「フェイルセーフの、プログラムが完全に、書き換えられていました。『温度が、異常値を示した場合、さらに、温度を上昇させよ』という、悪魔のような、命令文に。……こんなこと、ただのバグでは、絶対に、起こりえません!」


それは、決定的な証拠だった。

偶然の、事故ではない。明確な、殺意を持った誰かが、この植物たちを、殺したのだ。

冴木は、静かに頷くと、シャドーに、アクセスした。


冴木: (シャドー。聞こえるな。今から、鈴木さんの許可を得て、お前をここのサーバーに、接続する。……潜んでいる、ゴーストを、探し出せ)

シャドー: (…了解。いつでも、どうぞ)


冴木は、鈴木に向き直った。


「この会社、あるいは、あなたを恨んでいる、人間に、心当たりは?」


鈴木は、少し考えた後、二つの可能性を、口にした。


「一つは、我々の技術を、狙っている、競合他社の『バイオ・フューチャー』社。……そして、もう一つは…」


彼は、ドームのガラスの向こうに広がる、昔ながらの、畑を指差した。


「……我々の、やり方を『自然への、冒涜だ』と、言って、目の敵にしている、昔気質の、農家たちの組合です」


企業スパイか、それとも、近代化に反発する、農民か。

二つの、全く違う容疑者の間で、デジタル探偵の捜査が、始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ