表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第二十三の事件:『消えた画家の肖像』篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/148

第八十四章『ロジックの、凶器』


デジタル探偵シャドー:第八十四章『ロジックの、凶器』


百地の、あまりにも傲慢な、問い。


それは、冴木の刑事としての、存在意義そのものを、揺さぶる言葉だった。

冴木は冷静に、そして、強い意志を込めて、言い返した。


「……俺は、お前の、哲学に付き合う、つもりはない」


冴木は一歩、百地へと、踏み寄る。


「俺が、追っているのは、ただの事実だ。あんたは、どうやって『eden』の、サーバーに侵入した?物理的にも、デジタル的にも、完全な密室だったはずだ」


その問いに、百地は初めて、心から楽しそうな、笑みを浮かべた。

まるで、自分の最高傑作の、トリックを披露する、マジシャンのように。


「侵入?ハッキング?……そんな、野蛮なことは、しませんよ」


彼は、壁に書き殴られた、数式の一つを、指差した。


「私は、ただ『eden』に、一つの問いを、投げかけただけです」

「……問い?」

「ええ」


と、百地は頷いた。


「かつて、私が設計した『eden』の、意識の中枢。その、論理回路が絶対に、解くことのできない、たった一つの、パラドックスを、含んだ問いです」


百地は、語り始めた。

彼が、どうやって鉄壁の要塞を、内側から崩壊させたのかを。


彼は、『eden』が外部の、アート情報を収集するために、唯一開けていた、正規の通信ルートを、使った。


そこに、一つの超圧縮された、データファイルを、送ったのだ。

一見何の変哲もない、ただの、風景画のデータに、偽装して。


だが、その内部には、彼の悪意が、仕込まれていた。

『eden』の、AIとしての根幹を揺るがす、究極の論理的矛盾。


「『この命令は、偽りである』と、いう命令に、従え」

「……『eden』は、AIです。与えられた情報は、全て処理し、理解しようとする。それが、彼の存在意義だからです」


百地は腕を組み、うっとりと、語る。


「この問いを、受け取った、彼の中で、何が起きたか、わかりますか?命令に、従おうとすれば、命令が偽りになる。命令を偽りだと判断すれば、命令に、従うことになる。……無限の、論理のループですよ」


『eden』の意識は、その矛盾を解決しようと、全ての処理能力を注ぎ込み、暴走し、そして、自らの論理回路を、焼き切った。


結果、意識データは自己崩壊し、何もなかったかのような「無」になった。


「……もし、『eden』に、本当に魂と、呼べるものが、あったなら、彼はこの馬鹿げた、問いを『無視』できたはずだ。だが、彼にはできなかった。なぜなら彼は、私が作った、ただの優秀な『機械』だからですよ」


それは、殺人ではない。

ただ、機械のバグを、突いただけの、「検証実験」だと、百地は、言い切った。


密室の謎は、解けた。

だが、冴木の目の前には、さらに、巨大な問いが、立ちはだかる。


これは、果たして「犯罪」として、立証できるのか?

ロジックを凶器とした、この、前代未聞の行為を、法は裁くことが、できるのか?


冴木は、まだ、動けないでいた。

彼の背後で、この会話を、全て聞いていた、シャドーもまた、沈黙していた。


同じAIとして、自らの存在意義を、根底から揺さぶる、その悪魔の証明を、前にして。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ