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『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第二十三の事件:『消えた画家の肖像』篇

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第八十三章『魂の否定者』


デジタル探偵シャドー:第八十三章『魂の否定者』


シャドーが、モニターに映し出した、その男の経歴は、あまりにも、鮮やかで、そして、異質だった。


氏名:百地ももち あらた

経歴:元・巨大IT企業『ノア』所属。AI科学者。『eden』開発プロジェクトの、元・最高責任者。


シャドー: 『…百地は、5年前に、ノア社を、退社しています。理由は、『eden』の、開発方針を巡る、上層部との、対立。彼は、「AIに、感情や、意識を、持たせることは、人類への、冒涜である」と、強く、主張していました』


モニターには、学会で熱弁を振るう、若き日の百地の、映像が映し出される。

彼は壇上で、聴衆に向かって、叫んでいた。


「我々が、作っているのは、あくまで優れた『道具』だ!そこに、神を作ろうなどと、思うな!それは、科学ではなく、ただの、傲慢だ!」


冴木: 『…なるほどな。自分の理想とは、違う形で生み出された「神」が、世間から、崇められるのが、許せなかった、というわけか。……動機としては、十分すぎる。……それで、その、魂の否定者先生は、今どこに?』

シャドー: 『……それが、妙なのです。彼は、学会を去った後、一切の、表舞台から、姿を消しています。現在の、居住地は、不明。ですが、一つだけ、興味深い、データが……』


シャドーは、一枚の、地図を、表示した。


『eden』の、サーバーが、置かれていた、大阪の高層ビル。そのすぐ近くの、古い雑居ビルを、指している。


シャドー: 『百地は、一週間前、このビルの、一室を、借りています。契約期間は、わずか、一ヶ月。……まるで、何かを、成し遂げるためだけに、この場所に、来たかのように』

「……ビンゴだな」


冴木は、静かに、立ち上がった。

このデジタルの、密室殺人を解く、唯一の鍵は、その部屋にいる。


数時間後。

冴木が、その雑居ビルの、一室のドアを、ノックすると、中から静かな声がした。


「…どうぞ。鍵は、開いていますよ、刑事さん」


まるで、全てを、予期していたかのような、落ち着いた、声。


部屋に入ると、そこにいたのは、白衣を着た、痩身の男、百地新だった。


部屋には、ガラクタのような電子部品が、山積みになっており、壁には難解な数式が、びっしりと、書き殴られている。


だが、その混沌とした部屋の中で、百地だけが、静かに、コーヒーを啜っていた。


「……あなたが、百地新か」

「ええ。あなたが、噂の、デジタル探偵ですね」


百地は、冴木を、値踏みするように、じっと、見つめた。


「単刀直入に、聞こう。『eden』の、意識データを、消したのは、あなたか?」


その問いに、百地は、ふっと笑った。


「面白いことを、聞きますね、刑事さん」


彼は、ゆっくりと立ち上がると、冴木に向かって、逆に問い返した。


「私は、ただ、存在しないものを、存在しない状態に、戻しただけです。……それを、あなたは、『殺した』と、表現するのですか?」


『挑戦的な言葉』


それは、自らの犯行を認める、自白であると同時に、この事件の、本質を問う、哲学的な挑戦状だった。


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