第六十四章『神の視線』
デジタル探偵シャドー:第六十四章『神の視線』
2025年8月1日、金曜日、午前0時14分。
ゲーム内の、広場は大混乱に陥っていた。
冴木の、挑発に乗った『T-REX』のアバターが、暴れ回っている。
だが、冴木はそんなことには、お構いなしに、ただ、冷静にシャドーからの、応答を待っていた。
やがて、シャドーのウィンドウが、静かに更新された。
シャドー: 『…見つけました』
その、短い一言に、冴木は不敵な笑みを浮かべた。
シャドー: 『あなたの、仮説は正しかったようです。あなたが、『T-REX』と、接触したその刹那。二つのアカウント間で、やり取りされた、膨大な、通信パケットの中に、一つだけ全く、異質な、データが紛れ込んでいました』
冴木: 『…それは?』
シャドー: 『全ての、プレイヤーの行動を監視し、記録するための、「神の視線」とでも言うべき、隠しプログラムです。ゲームマスターは、このプログラムを通して、全てのプレイヤーの通信を、リアルタイムで、監視していました』
冴木: 『その、「神の視線」の、発信源はどこだ?』
シャドー: 『はい。それこそが、ゲームマスターの、本当の隠れ家です。
IPアドレスを、逆探知。…特定しました。
神奈川県、横浜市。山下公園近くの、古い雑居ビルの一室です。おそらくそこが、全てのクエストが、発令されている秘密基地です』
ついに、尻尾を、掴んだ。
ゲームの盤上から、神を気取っていた男の正体を暴く、手がかりを。
冴木は、スマートフォンで、静かにゲームから、ログアウトした。
彼のアバターが、光の粒子となって、消えていく。
「…さて、と」
彼は、立ち上がると、コートを羽織った。
「ゲームの時間は終わりだ。これからは、現実の、鬼ごっこを始めようぜ。ゲームマスターさんよ」
彼は、部下たちに、短い指令を出す。
横浜の、雑居ビルへの突入準備だ。
ゲームの神の、正体を暴き、そして、その歪んだ遊びを終わらせるために。
冴木とシャドーの反撃が、今、始まろうとしていた。




